ABOUT PROJECT

STAND UP STUDENTS Powered by 東京新聞

Powered by 東京新聞ABOUT PROJECT

いま、わたしたちのまわりで、
起きていること。

毎日の勉強や、遊びに恋愛、就活。普段の暮らしの中では見えてこないたくさんのできごと。環境のことや政治、経済のこと。友達の悩みも、将来への不安も。小さなことも大きなことも全部、きっと大切な、自分たちのこと。

確かなこと。信じること。納得すること。コミュニケーションや、意見の交換。
あたりまえの自由さ、権利。流れてきた情報に頼るのではなくて、自分たちの目で耳で、手で、足で、感動をつかんでいく。

東京新聞『STAND UP STUDENTS』は、これからの社会を生きる若者たちに寄り添い、明日へと立ち向かっていくためのウェブマガジンです。等身大の学生たちのリアルな声や、第一線で活躍する先輩たちの声を集めることで、少しでも、誰かの明日の、生きる知恵やヒントになりたい。

時代を見つめ、絶えずファクトチェックを続けてきた『新聞』というメディアだからこそ伝えられる、『いま』が、ここに集まります。

STUDENT NOTE

08
千葉あみ
Ami Chiba

小さな声に耳を傾け、社会のこと、これからのこと、身近なことを一緒になって考えていくために、学生が書いたエッセイを『STUDENT NOTE』としてお届けしています。

日々の暮らしの中で思ったこと。SNS やニュースを通じて感じたこと。家族や友人と話して気づいたこと。もやもやしたままのこと。同世代の学生が綴る言葉が、誰かと意見を交わしたり、考えたりする<きっかけ>になればと思っています。

第8回は、自身の病気が発端となって医療に興味を抱き、医療従事者に対する理解を得るためにさまざまな活動を行ってきた千葉あみさんによるエッセイです。

命を救うこと
〜医療従事者を救うのは誰か〜


文:千葉あみ
絵:相馬涼


飛行機に乗っている際にあなたの家族や親しい友人が倒れたと仮定しよう。

「機内にお医者様はいらっしゃいますか?」

というアナウンスが流れて、ある医者が現れて、限られた環境下で最善の治療を施して容体がひとまず落ち着いた。しかし、着陸後に容体が急変して近くの病院に搬送されたが死亡した。

この場合、あなたは飛行機の中で治療を施した医師を罵ったり、責任を問うか。あくまで想像の話だが、多くの人々はその医師に責任を問う言動をするだろう。


そもそも、なぜ私が医療に関心があるのかというと、中学1年生の時に「先天性左肺動脈狭窄症」という病気が見つかったことが発端である。先天性左肺動脈狭窄症とは、左肺動脈の狭窄により右心室から肺に流れる血液が流れにくくなるため、右心室に負担がかかり、動悸や息切れが起こりやすい病気である。

そのため、私は中学生の頃から定期的に通院していた。医療は身近な存在であり、医師を含む医療従事者の働く姿を目にする機会が多かった。特に、様々な分野がある中でも、私は緊急時における迅速な急患対応かつ正確な判断が求められる救命医療に関心を持った。

病気が見つかったことを起点に医療に興味を持った私は、高校独自の探究活動プログラムを活用して高校3年間で救命医療について研究した。その活動の中で、高校1年生時に某病院の救命救急センターを取材する機会を得た。この取材が私の人生を大きく変える分岐点になった。

「医師の仕事は通常勤務に加え、フェローの育成や外部での講演活動もする。しかし、1分1秒の違いで生存率は大きく変わるので、1つでも多くの命を救うために長時間働かざるを得ない」。私は取材した救命医のこの言葉に驚愕した。

また、その救命医は帰宅せずに3時間の仮眠だけで勤務することもあると言った。


医療従事者は特殊な職業である。部活の顧問を強いられて残業せざるを得ない教師や事件発生時に出動しなくてはならない警察官が同様の職種として挙げられる。医療従事者の場合、長時間に及ぶ手術や救急搬送された患者の対応など過重労働せざるを得ない状況が常に生じかねない。

特に、医師は応召義務により正当な理由がなければ診療や治療を拒否してはならない。しかし、こうした過重労働による睡眠不足や集中力低下などが原因で、医療事故や医療過誤が起きかねないことも事実である。また、医療事故や医療過誤の責任に対する処遇によって、彼らは職権停止、最悪のケースでは職権剥奪されることもある。

多くの医療系テレビドラマやドキュメンタリーは、エンターテインメント要素を持ち合わせる必要があるため、彼らの仕事における人間らしい部分や格好良い部分を中心に制作されたように感じる。そのため、リアルな医療現場をちゃんと知らない私たちは、あくまでメディアが作り上げたものでしかない医療従事者の理想像を、実際の現場で働く医療従事者だと受け止めてしまっているのではないか。しかし、彼らの仕事は命を救うことだけではなくて、将来の医師の卵であるフェロー育成や最先端医療の普及・勉強など計り知れない程の仕事で溢れている。

「今後の救命医療に対して私たちができることは何かありますか?」

と質問した際、私が取材した救命医はこう答えた。

「一般の人々が救命医療を理解するとともに、協力的になってほしい。そのために、外部にもっと救命医療を広めてほしい。」

私のような医師免許を持たない人は、今働く医師に代わって彼らの業務を行うことが不可能だからこそ、私たちは彼らの活動を理解してどのように協力すべきか模索する必要がある。


話が変わるが、高校時代に私は朝日中高生新聞の学生記者として何本か記事を執筆して掲載されたことがある。この活動を通じて、私は自分の言葉ひとつひとつの責任の重大さを実感するとともに、私たちの常識や固定観念と実際の現場のリアルとのギャップの大きさを痛感した。

特に、私が学生記者として初めて執筆したジュニアロースクールのレポート記事が印象深い。ジュニアロースクールで、私は弁護士の方に取材する機会を得た。私たちにとって弁護士はどこか硬派で縁遠い存在と感じる。しかし、この取材を通じて、音楽の著作権など弁護士という仕事が私たちの日常生活を支える基盤を整えていることを知り、身近な存在であると思った。だからこそ、私は常に現場のリアルを追い求めてそれを自分の言葉で発信し、世の中の当たり前を疑う目を読者に提供したい。私が追い求めたいリアルは医療現場であり、医療現場に対する常識や認知を見直してほしい。

医師を含む医療従事者は命を救うという職権を持っていることで神様のように扱われる。しかし、彼らは神様ではなくて私たちと同様に人間であることを忘れていないだろうか。今後も、多くの命を救う信念のもと自己研鑽し続ける医師を含む医療従事者のリアルな声と向き合っていきたい。

上記の取材後、訪日外国人観光客用の医療マップを作成するといった活動も続けてきた。高校3年間の「救命医療」についての探究活動を踏まえて、私が一番やりたいことは医師を含む医療従事者を助けることだと明確になった。

将来的に、医療事故・医療過誤関連訴訟に対する医療従事者の職権保護など法律的な面から医療現場に携わりたいと、現時点では考えている。そのために、医療現場のリアルな声を追いかけ続けるとともに、日頃から医療関連を含む法的知識を蓄えて、目標を達成できるよう精進していきたい。

2021年12月30日

※ エッセイへのご感想やご意見がありましたら STAND UP STUDENTS の公式インスタグラム へ DM でお送りいただくか、匿名でも投稿できるフォームにお送りください。STAND UP STUDENTS では、今後も、学生たちがさまざまな視点で意見や考えを交換し合える場や機会を用意していきます。お気軽にご参加ください。

千葉あみ
Ami Chiba
2002年生まれ。法学部法律学科1年生。
趣味は歌うことと美術館巡り。大学では医療過誤や医療事故について研究する予定。
少しでも何か考えるきっかけになれたら嬉しいです。

------

イラスト:相馬涼
https://www.instagram.com/ryo.soma/

シェアする

GO TO TOP