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STAND UP STUDENTS Powered by 東京新聞

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いま、わたしたちのまわりで、
起きていること。

毎日の勉強や、遊びに恋愛、就活。普段の暮らしの中では見えてこないたくさんのできごと。環境のことや政治、経済のこと。友達の悩みも、将来への不安も。小さなことも大きなことも全部、きっと大切な、自分たちのこと。

確かなこと。信じること。納得すること。コミュニケーションや、意見の交換。
あたりまえの自由さ、権利。流れてきた情報に頼るのではなくて、自分たちの目で耳で、手で、足で、感動をつかんでいく。

東京新聞『STAND UP STUDENTS』は、これからの社会を生きる若者たちに寄り添い、明日へと立ち向かっていくためのウェブマガジンです。等身大の学生たちのリアルな声や、第一線で活躍する先輩たちの声を集めることで、少しでも、誰かの明日の、生きる知恵やヒントになりたい。

時代を見つめ、絶えずファクトチェックを続けてきた『新聞』というメディアだからこそ伝えられる、『いま』が、ここに集まります。

STUDENT NOTE

03
関ゆみん
Yumin Seki

東京新聞 STAND UP STUDENTS では、小さな声に耳を傾け、社会のこと、これからのこと、身近なことを一緒になって考えていくために、学生が書いたエッセイを『STUDENT NOTE』としてお届けしていきます。

日々の暮らしの中で思ったこと。SNS やニュースを通じて感じたこと。家族や友達、パートナーと話していて気づいたこと。もやもやしたままのこと。同世代の学生がさまざまな切り口から綴る言葉が、誰かと意見を交わしたり、考えたりする<きっかけ>になればと思っています。

第3回は、自身の「訪問看護ステーション」のアルバイト体験から「生き方」について考えた関ゆみんさんによるノートです。

たとえば、ひとりで生きていくとして

文:関ゆみん
絵:長谷川海

「あなたなら、どのキャリアを希望しますか?」
これはつい先日、授業で出題されたアンケート。選択肢は6つ。

➀ 家庭に専念(結婚したら仕事を辞める)
② 育児優先
③ 家庭と仕事両立
④ 結婚して、出産せずに、仕事を続ける
⑤ 結婚しないで仕事を続ける
⑥ その他

女性たちの仕事に対する意識がどのように変わってきたのかということを授業で取り上げる前段階として、キャリアに対する学生たちの意見を聞くというのがこのアンケートの目的のようだ。男女の賃金格差や、家事労働を主に女性が担っているといった課題を取り上げる授業を私はよく受けているので、こういうアンケートは今までも何回か経験してきた。言ってしまえば、「あるある」なのだ。

たかが授業中のちょっとしたアンケートだ。難しく考えずに、さっさと選んで答えれば、それで済むと分かっている。でも、結婚するとかしないとか、子どもを産むとか産まないとか、希望を選択させられることにうんざりしている自分がいた。今のうちから考えておかなければ駄目だよ、と言われているようで息苦しかった。

6択だけど、実質5択のアンケートになってしまっている気がした。「⑥その他」という選択肢に、多様な生き方の選択肢がひとまとめにされてしまっているように思えた。もっと多様な選択肢があればいいのに、と思う。例えば、「結婚しないで、出産する」という選択肢がないのはなぜだろう。そして、そもそも結婚と出産だけが自分のキャリアを左右する要素なのだろうか。

もちろん、どの生き方が正しいなどと教授が言うことはない。「⑥その他」という選択肢も設けて配慮もしてくれている。でも、アンケートに答えるときに、「結婚と出産が女性の人生にとっての2大イベントであり、『働きながら、結婚して、子育てをする』という3つの選択肢を達成する生き方こそが理想的でかっこいい」と自然と自分に言い聞かせてしまうような、この感覚は何なのだろう。

アンケートに対して「結婚したら仕事辞めるかもしれません」「何があるのかわからないので、その時々で考えます」なんて、答える学生はほぼいない。予想通り、学生たちの多くが、③か④と回答し、中でも③を選ぶ学生が大半だった。

新しい「生き方のスタンダード」をつくることが、どこかで誰かを息苦しくさせているかもしれない。そして、どんなに女性のキャリアへの意識が昔と変化したといっても、結婚や出産というものに対しての意識はそこまで変わっていないのかもしれない。

もっと自由に、多様な選択肢をもとに、自分のキャリアや人生について考えてみたい。私自身、結婚や出産に憧れを抱くことはあるし、将来ひとりで生きていくことを想像して漠然とした不安を感じてしまうこともあるが、「結婚をして出産をする」というルートをたどることに執着したくないとも思う。

何より、10年後、20年後の自分がどんな暮らしをしているか、どんな価値観をもっているかなんてわからない。ただ、どんな生活を送っていても、自分なりに楽しく過ごしていたい。

少し話は変わるが、今年に入って、私は「訪問看護ステーション」で事務のアルバイトを始めた。訪問看護は、看護師さんたちが利用者さんの自宅などに訪問して看護を行うサービスのこと。ケアを受ける本人や、その家族の意見を丁寧に聞きながらケアをし、看取りまで行うこともある。

看護師さんの訪問に同行したり、職員さんや看護師さんたちの話を聞いたりする中で、看護や介護といったケアにおける家族の役割・負担がかなり大きい現状を知った。その一方で、家族以外の第三者がケアに介入することには、かなりメリットがあるということもわかった。ステーションに、訪問看護を利用した人の家族から感謝の手紙が送られてくることがあるのが、その証拠だ。

家族がケアをしなくてもいい、家族にケアを任せなくてもいい。

家族の有無に関わらず、人にはケアを受ける権利があるし、家族だからと言って、ケアをする義務はない。そのことに、やっと気づくことができた。そして、家族と関係を断ってしまった人や、独居の高齢者であっても、公的な支援を受けながら自分の家で暮らしていくことができるという事実に、私は少し勇気づけられた。ケアの形にも様々な選択肢があるなら、私の生き方にももっと多様な選択肢があるのかもしれない。「おひとり様」として生きることも、意外とそこまで怖いことではないのかもしれない。

一人で生きるということへの漠然とした恐怖が少しずつ消え、考えたくない、直視したくないという気持ちが、次第に「考えてみたい」という気持ちに変わった。一人で人生を終える可能性は誰にでもある。ケアが必要でも、家族に助けを求められないことだってある。どんな人生を送り、どんな最期を迎えるのか、多様な自分の人生を「想像」してみたいと思った。

未来の自分が、今とは全く異なる状況のなかで生きているかもしれないと考えてみること。そして、自分とは、全く別の価値観をもち、異なる生き方をしている人がいるということを理解して、その人の気持ちになって考えようと努力してみること。その人の生き方を否定しないよう、配慮すること。 

今、私に必要なのは「想像力」なのだと思う。

2021年8月3日

※ エッセイへのご感想やご意見がありましたら STAND UP STUDENTS の公式インスタグラム へ DM でお送りください。 

STAND UP STUDENTS では、今後も、学生たちがさまざまな視点で意見や考えを交換し合える場や機会を用意していきます。お気軽にご参加ください。

関ゆみん
Yumin Seki
2000年生まれ。大学3年生。
家族法学専攻。
趣味は、ダンス、打楽器の演奏、韓国ドラマ観賞。
最近は、大学で生理用品の常設を求める活動をしたり、セクシュアルマイノリティの居場所づくり事業に関わったりして、いろいろと勉強中です。

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イラスト : 長谷川海
https://www.instagram.com/umihasegawa/

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