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STAND UP STUDENTS Powered by 東京新聞

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いま、わたしたちのまわりで、
起きていること。

毎日の勉強や、遊びに恋愛、就活。普段の暮らしの中では見えてこないたくさんのできごと。環境のことや政治、経済のこと。友達の悩みも、将来への不安も。小さなことも大きなことも全部、きっと大切な、自分たちのこと。

確かなこと。信じること。納得すること。コミュニケーションや、意見の交換。
あたりまえの自由さ、権利。流れてきた情報に頼るのではなくて、自分たちの目で耳で、手で、足で、感動をつかんでいく。

東京新聞『STAND UP STUDENTS』は、これからの社会を生きる若者たちに寄り添い、明日へと立ち向かっていくためのウェブマガジンです。等身大の学生たちのリアルな声や、第一線で活躍する先輩たちの声を集めることで、少しでも、誰かの明日の、生きる知恵やヒントになりたい。

時代を見つめ、絶えずファクトチェックを続けてきた『新聞』というメディアだからこそ伝えられる、『いま』が、ここに集まります。

STUDENT NOTE

02
向後李花子
Rikako Kougo

東京新聞 STAND UP STUDENTS では、小さな声に耳を傾け、社会のこと、これからのこと、身近なことを一緒になって考えていくために、学生が書いたエッセイを毎月『STUDENT NOTE』としてお届けしていきます。

日々の暮らしの中で思ったこと。SNS やニュースを通じて感じたこと。家族や友達、パートナーと話していて気づいたこと。もやもやしたままのこと。同世代の学生がさまざまな切り口から綴る言葉が、誰かと意見を交わしたり、考えたりする<きっかけ>になればと思っています。

第2回は、趣味の『お笑い』を通じて見えてきた社会の変化に言及した、向後李花子さんによるノートです。

笑いたいけど笑えない
– よりよい社会と取り残されたお笑い –


文:向後李花子
絵:さわともか


みなさんは「お笑い」を見ますか?

私は大好きで毎日見ます。テレビの録画容量は常に不足してるし、朝起きたら前日に録画した番組を見ながら支度をするのが日課。何がきっかけでそうなったかはよく覚えてないけれど、『ロンドンハーツ』を見ていたことは覚えている。兄に「PTAが子どもに見せたくない番組で1位なんだよ」って言われたこともあった。そんな事実よりも、面白いものを私が制限されるのは納得いかないなって思っていた。

幼少期からずーっとお笑いを見てきた私だけれど、大学生になってからちょっとだけもやっとすることが多くなった。

それは私が接する世界が広がって、いろんな視点からものごとを考えるようになったのが大きい。フェミニズムの視点、ジェンダー・セクシュアリティの視点、ホームレスの人の視点、障害者の視点、同世代の視点、など、いろいろなコミニティに触れて、少しずつだけど学んできた。

いつしか *ポリティカルコレクトネス の考え方が、お笑いにも向けられるようになり、「配慮」という言葉のもとに全方向にソフトな表現をしないといけない、と考えるようになった。つまりは、今まで通りのお笑いでは笑えない、不快に思う人がいることに気がついたということ。

*ポリティカルコレクトネス … 社会的・政治的に公正中立であること。また、そのために人種や民族、宗教、ジェンダーなどの差別や偏見を含まない表現をすること。

どういうときにそう感じるかというと、容姿に対する「いじり」に代表される「相手をばかにして笑いをとる」とき。みんなも実感してると思うけど、ここ数年で、見た目に関する発言にすごく敏感になってると思う。

例でいうと「ブス」「デブ」がわかりやすい。「ブス」だとなんで面白いんだろう…ツッコミのタイミングがめちゃくちゃいいから面白いんだけど、これで笑ってしまっていいのかな?とか。「デブ」に関しては、見た目でインパクトがあるから面白みを感じちゃうけど、太ってることが面白いってなんだ?とか。でも、それを売りにしている芸人さんもいるから、その人たちの「おいしい」部分をコンプライアンスでめったぎりしてしまうのも、申し訳なく思ってしまうことが悩ましい。

あと、悪ふざけの笑いも難しい。

面白さを追求すると過激な発言とか、こんなことして大丈夫!?って思うようなハラハラするような展開になっていきがち。私は、こんな展開はプロの芸人にしかできないから、やっぱり面白いなと思って笑ってしまうし、その現場では芸人たちもエンジンがかかってるから、ノリを維持したまま全力をそそいで笑いにもっていくので、そこで生み出された笑いは(悪ふざけでも)本当に面白いから笑ってしまう。それでも、やっぱり「やりすぎだと思う」とか「かわいそう」といった声が視聴者から出てくることもある。

これには「演者同士の関係性が、視聴者には見えにくいということが関わっていると思う。

実際にあった例を挙げると、

ある芸人が他の芸人からすごくいじられていた。2人は昔からの友人関係があってのおふざけだから普段から許されている。だけど、その関係性を知らない視聴者からは、ただただ一方の芸人が度を超えていじられていて「かわいそう」という印象をもたれる。けれど、そのような状況でも「全然平気だけど」と発言する芸人もいた。

こうなると自分を犠牲にする芸風はどんどん規制されてくるのではないかと不安になる。視聴者も、悪気があって言っているのではなく、正義や思いやりから発言しているのだとは思うけれど…。

「配慮」を盾に、目に見えるすべてを規制していく、今は空前の配慮祭りであると思う。

ここでよく言われるのが「嫌なら見なきゃいい」論。SNSは気軽にコメントできるからアンチコメントがくることもある。それに対抗してくるのが「嫌なら見なきゃいい」論者たち。

最近のテレビはコンプライアンスが厳しくなってきてるから、過激で攻めた内容の番組はネットで配信されるようになった。ネット番組だとわざわざアプリをダウンロードしたり、有料で会員登録したりするから本当に見たい人だけが見る。ネット番組なら「嫌なら見なきゃいい」論が成立するけれど、多くの人が見られるテレビはそうはいかない。だからテレビは、もはや過激で攻めた内容で視聴者を驚かすような場所ではなく、安心して見られる、いわゆる「誠実」な笑いを提供する場になってしまったのではないかと思う。

私もネット番組を視聴することもあるけれど、やはりテレビでは流すことが難しそうな内容が多いと感じる。私のような刺激を求める視聴者は満足できるが、テレビとネット番組との格差が広がり、最終的にネット番組がお笑いの闇の巣窟のようになってしまうのではないかという懸念もある。

芸人同士の絡みはプロだけれど、私たちは彼らの関係性はわからないから、芸人たちもどこまでテレビでやり合っていいのかわからない部分があると思う。もちろん、最近ますます議論されている『人権』に関わること(セクシャルマイノリティ、人種など)は、笑いの対象にしてはいけない。しかしそれを除けば、お笑いのプロたちが繰り広げる多様な「笑い」にはもう少し心を広くしても良いのではないかと思う。

悪ふざけの笑い、見た目に関する笑い、過激な発言は配慮が必要だと思いながら見ている一方、非日常的で、刺激的な笑いも私は大好きだし、それで笑ってしまうこともある。でもこれはすごく曖昧なグレーゾーンだと思う。

例えば、男性芸人が女性芸人へセクハラに近いいじりをして「今の時代そんなんあかんやん!」といったツッコミが入ることで起きる笑い。本来「今の時代」じゃなくてもセクハラはダメなのはわかってるけど、まわりからの「アホかっ」っていう責められ方が面白くてつい笑ってしまう。

あと、悪ふざけがギリギリまでいって、その現場のノリの面白さと不安がっている芸人の狭間の、ヒリヒリする感じで起こる笑いもある。

白黒つけられないグレーの部分が、『笑いたい私』と『笑えない私』を対峙させる。

そんな時、笑っていいのか。

「尖っている」の捉え方を間違えないようにしたい。変化している視聴者とともに芸人も変わっていくことで、お互いのベクトルが合致した時に、納得の「お笑い」が生まれるのではないかと思う。

昔はよかった、今はこれ使えないか、と言う芸人さんもいる。

たしかに昔は今よりもっと企画や発想が大胆で、人権を無視したような刺激的な発言も多かった。けれどそれで今、窮屈だと感じているということは、確実にジェンダーの意識の高まりと、個人を尊重するという流れが来ているということでもある。

笑いたい私と、笑えない私。両者はいまも私の中で共存している。

時代に合わせて変わる部分もあれば、過激で攻めた笑いを求めている人がいる限り、ずっと変わらない笑いもあるかもしれない。正直、これに関する答えは出ないし、はっきり出すこともできない。

でも、私の好きだったお笑いがなくなってしまったら、私の笑い声はどこにいけばいいのだろうか。

だから、自分の感覚で明らかにダメだと思うものは切り捨てていって、笑っていいのかどうかグレーゾーンのものは、その曖昧さに向き合いながら、笑いたいものは笑っていこうと思う。それは、笑われる人も、笑わせる人も、笑う人も、今がまさに転換期にあると思うから。

今日もテレビの録画予約をして、ネット番組をチェック。大好きなお笑いの変化を、今後もしっかりと見届けていきたい。

2021年7月26日


※ エッセイへのご感想やご意見がありましたら STAND UP STUDENTS の公式インスタグラム へ DM でお送りください。 

STAND UP STUDENTS では、今後も、学生たちがさまざまな視点で意見や考えを交換し合える場や機会を用意していきます。お気軽にご参加ください。

向後李花子
Rikako Kougo
2001年生まれ。大学3年生。
史学をベースに、ジェンダーや個人のアイデンティティに関わることを勉強中。趣味はお笑い観賞、ギャラリー巡りなど。
2020年『NEUT Magazine』でのインタビュー企画に参加。
現在は2000年生まれでつくる magazine「ヤングマンベイグ」で活動中。

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イラスト : さわともか
https://www.instagram.com/sawa_tomoka/

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