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STAND UP STUDENTS Powered by 東京新聞

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いま、わたしたちのまわりで、
起きていること。

毎日の勉強や、遊びに恋愛、就活。普段の暮らしの中では見えてこないたくさんのできごと。環境のことや政治、経済のこと。友達の悩みも、将来への不安も。小さなことも大きなことも全部、きっと大切な、自分たちのこと。

確かなこと。信じること。納得すること。コミュニケーションや、意見の交換。
あたりまえの自由さ、権利。流れてきた情報に頼るのではなくて、自分たちの目で耳で、手で、足で、感動をつかんでいく。

東京新聞『STAND UP STUDENTS』は、これからの社会を生きる若者たちに寄り添い、明日へと立ち向かっていくためのウェブマガジンです。等身大の学生たちのリアルな声や、第一線で活躍する先輩たちの声を集めることで、少しでも、誰かの明日の、生きる知恵やヒントになりたい。

時代を見つめ、絶えずファクトチェックを続けてきた『新聞』というメディアだからこそ伝えられる、『いま』が、ここに集まります。

STUDENT NOTE

01
日比楽那
Rana Hibi

東京新聞 STAND UP STUDENTS では、小さな声に耳を傾け、社会のこと、これからのこと、身近なことを一緒になって考えていくために、学生が書いたエッセイを『STUDENT NOTE』としてお届けしていきます。

日々の暮らしの中で思ったこと。SNS やニュースを通じて感じたこと。家族や友達、パートナーと話していて気づいたこと。もやもやしたままのこと。同世代の学生がさまざまな切り口から綴る言葉が、誰かと意見を交わしたり、考えたりする<きっかけ>になればと思っています。

プロローグとも言える第1回は、昨年『STUDENT VOICE』に登場した学生で、役者としても活動する日比楽那さんによるエッセイです。

きょうの献立とあしたの社会
– 考えることをやめないために –

文:日比楽那 
絵:satsukim


バイト先に向かう途中、電車に揺られながら、私はツイッターのアプリを開く。目に留まったのは、オンライン署名サイトのリンクが添えてあるツイートだった。サイトに飛んで、ステートメントを読み、署名する。

私にできることは、これだけなのだろうか。

そんなわけない。
そんなわけない、はずだけど、実際に私が、「よりよい社会」のために日常的にやっていることといえば、それくらいかもしれない。そう考えると、怒りとも悔しさともいえない複雑な気持ちがふつふつと湧き上がってくる。

「よりよい社会」なんていうとちょっと嘘っぽいというか、偽っぽいというか、誰のための何?みたいな、曖昧で、綺麗事めいた印象がしなくもないけれど。

しかし、私ははっきりと、よりよい社会を希求する。

よりよい社会を実現するために何かしたい、しよう、しなければならない、という思いと、私にできることなど何もない、という思いを、反復横跳びして葛藤しながら。


ずっと憧れてやっと始めた、東京でのひとり暮らしも、2年目になる。月並みだけど、生活を営むのは簡単じゃない、と身をもって感じた約1年間だった。

買い物に行かないと食材はないし、料理しなければごはんは出てこない。

バイト代で家賃と生活費のほとんどを賄わなければいけない学生なので、ウーバーイーツは使えないどころか、節約のために、お肉は駅前の SEIYU で、野菜は商店街の八百屋さんで、分けて買い物をする。

洗濯機のない部屋に住んでいるので、洗濯は毎回、近くのコインランドリーまで行く。

ただ生きているだけで、使用済みの食器も、洗濯しないといけない衣類も、部屋の隅の埃も、すぐに溜まっていくから、油断ならない。

そうやって家事をこなし、大学の勉強をして、バイトする。

そのベースの上で、ひとり、映画を観てにやにやしたり涙ぐんだりすることもあれば、好きな人とゆっくりお茶して、安らぐこともある。

友人に慰められてやっと家に帰れる日があれば、逆に友人が泣きながら電話をかけてきて、夜中まで話し込むこともある。
嬉しいことがあったら走り出したくなるし、悔しいことがあった夜は眠れない。

天気がいいだけで気持ち良くてご機嫌な日も、何をやっても上手くいかなくて逃げ出したくなる日も、ある。

平凡な日常だけど、それだけで、そんな自分の内側のことと外側半径1mくらいのことで、私はいつもいっぱいいっぱいだ。
そんな日々に、さまざまな問題が現れては、私の頭を悩ませる。

私個人に降りかかってくる問題も、社会問題とされているものとニアリーイコールであることが多いことに気づくのには、あまり時間はかからなかった。


女性だから?
映画の仕事で出会った年上の男性に声をかけられ食事に行ったとき、仕事の話はさせてもらえず、「ゆっくり遊ぶ日を作ってよ」と言われた。

学生だから?
契約前の段階だったにもかかわらず、頼まれたことを断ったら、「この業界に居づらくなるよ」と脅された。

マイノリティだから?
どこかの誰かの差別的な発言に、私の一部を否定された。

私の生きづらさはきっと、私だけの問題ではない。同じく、誰かの生きづらさもきっと、その人だけの問題じゃない。

だからこそ、どうにかどうか、現状を変えたいと思う。
けれどどうしたらいいのか、方法がわからない。きっとこうしたらいいだろうという方法は知っていても、それをして周りからどう見られるか、気にしてできないこともある。

そして、そんなときも、終わりなき家事や、大学の課題や、バイトのシフトは、待ってくれない。

結局冒頭のように、微々たる行動しか起こせなかったり、選挙に行かない友人に軽く「行こうよ〜」と言ったり、家族や仲のいい友人の発言に「それは違うんじゃない?」と伝えたりする程度にいつまでもとどまってしまう。

そうやって、ぐるぐる考えても自分の無力さを痛感して、考えること自体を放棄してしまいたくなることもあるけれど。それでも、思考することだけでも、決してやめてはいけないと思う。


日々の暮らしと社会問題は地続きなのに、どうしてよりよい社会をつくるためのアクションが日常的じゃないのだろう。

今の政治はおかしい、という違和感が、なくならないまま何年も経ってしまっているのは、一体なぜなんだろう。

もちろんすぐに全てが好転するなんてことはあり得ないし、自分の選択や発言や発信や賛同で、何かが変わる可能性が高いわけじゃないことは重々承知だ。

しかし、自分を知り、他人を知り、考え、感じることをあきらめてはいけないと、つくづく感じる。

そういう気持ちをシェアして、話し合える場が欲しいし、そういう気持ちのみならず、同世代のみんなと、あるいは世代を超えて、つながり、助け合えたらいいのにな、と思う。

私は、あなたと話がしたい。

今日の献立とか、最近聴いてる音楽とか、そんな他愛のない話から、あくまでそれらと地続きの、社会や政治の話まで。

よければ、一緒に話しましょう。

2021年6月23日


※ エッセイへのご感想やご意見がありましたら STAND UP STUDENTS の公式インスタグラム へ DM でお送りください。

STAND UP STUDENTS では、今後も、学生たちがさまざまな視点で意見や考えを交換し合える場や機会を用意していきます。お気軽にご参加ください。

日比楽那
Rana Hibi
2000年生まれ。大学2年生。
演劇や映像に出演したり、それらの制作に関わったり、文章を書いたり、写真を撮ったり、しています。
主な出演作は、劇団ままごと「わたしの星」、小川紗良監督「最期の星」、東京芸術祭「野外劇 吾輩は猫である」など。
企画・ライティング・写真撮影などで参加した媒体は、ライフ&カルチャーコミュニティ「She is」や、2000年生まれでつくるマガジン「ヤングマンベイグ」など。

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イラスト : satsukim
https://www.satsukim.com/
@satsukim12


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