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STAND UP STUDENTS Powered by 東京新聞

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いま、わたしたちのまわりで、
起きていること。

毎日の勉強や、遊びに恋愛、就活。普段の暮らしの中では見えてこないたくさんのできごと。環境のことや政治、経済のこと。友達の悩みも、将来への不安も。小さなことも大きなことも全部、きっと大切な、自分たちのこと。

確かなこと。信じること。納得すること。コミュニケーションや、意見の交換。
あたりまえの自由さ、権利。流れてきた情報に頼るのではなくて、自分たちの目で耳で、手で、足で、感動をつかんでいく。

東京新聞『STAND UP STUDENTS』は、これからの社会を生きる若者たちに寄り添い、明日へと立ち向かっていくためのウェブマガジンです。等身大の学生たちのリアルな声や、第一線で活躍する先輩たちの声を集めることで、少しでも、誰かの明日の、生きる知恵やヒントになりたい。

時代を見つめ、絶えずファクトチェックを続けてきた『新聞』というメディアだからこそ伝えられる、『いま』が、ここに集まります。

先輩VOICE

07
陳暁夏代
NATSUYO CHINSHO

『先輩 VOICE』7人目は、幼少の頃から日本と中国を行き来し、日中双方のカルチャーに寄り添ってきた経験を生かした企業ブランディングやマーケティングによって、国内外を問わず実績を重ね、若者から熱い支持を得ている陳暁夏代(ちんしょう・なつよ)さん。世の中の変化をリアルタイムでキャッチアップし、自身もクリエイティブディレクター、時にはコメンテーターとしてメディアに登場する異色のキャリアを持つ彼女に、日本と中国のメディアの違いや、ニュースへの向き合い方について聞いてみました。

普段はどんなお仕事をしていますか?

主に2つの仕事をしています。1つは日本の仕事で、企業のブランディングや課題解決のためのプロジェクトの企画立案を手がけています。コンセプトを考えたり、ターゲットを見極めたり、よく広告代理店がやっているようなブランドのコンサル業ですね。ジャンルにとらわれず、幅広く、サービスのローンチからPRのアウトプットまでをワンストップで請け負うことが多いです。

もう1つは、日本のアーティストや作品など最新のエンタメから伝統芸能までを、中国のマーケットに紹介し、展示や公演などの進出をサポートするというようなことをしています。例えば、上海のクラブと日本のアパレルブランドとのコラボイベントを作ったり、大型の劇場での公演を企画したり。マッチングに近いですかね。「こういう人いない?」と中国の企業から相談を受けることもあれば、私がいいと思ったものをとにかく紹介して実現させることもあります。

その仕事をするようになったきっかけはなんですか?

27歳まで芸能事務所や広告代理店にいて、そこから中国系のビジネスコンサルを2年ほどやっていました。社会トレンド的にも需要が高い業種で、働く上での条件においては困っていなかったのでずっとやっても良かったんですけど、30代を目前に「挑戦したい」と思ったんですよね。得意なことをずっと続ける選択肢を選ぶより、今のうちに『苦手なこと』をしてみようと思って。

その後、経験と知識を生かして、『自分の好きなことを仕事にしよう』と思うように。そこから徐々に「カルチャーとビジネスをマッチングさせる」という流れにシフトしていきました。課題解決という点では業界が変わってもスキームは一緒なんですよね。

どちらも共通して『通訳』のようなお仕事のように感じますね。共通言語を探す力というか。

そうですね。共通言語を持たない『中国』と『日本』の通訳と、『アーティスト』と『企業』の通訳の、4つをクロスさせることができる人って日中にはまだ少ないし、需要があるだろうなと思い、何年かはこのスタイルでがんばってみようかなと起業しました。実際、中国でも日本のコンテンツの需要が高まってきていて、相談を受けることがすごい増えてきていたんです。中国は経済的に豊かになりここ2、3年で年で相談件数も2、3倍になりました。

そういった中国の経済の情報をはじめ、国内外のニュースはどうやって入手していますか?

とにかくいろいろ見ますね。ただ「偏っていないニュースはない」という前提で見ているので、1つのメディアだけを見るということはしません。メディアのスタンスや記者の書き方によってニュアンスが変わってしまうので、とにかく量を見ます。多くの人が、記事の『見出し』だけ読んで理解したつもりになってしまいがちだと思うんですが、それでは絶対に全体像はわからないし、誤解してしまっている可能性が大きいと思います。多くのメディアは PV 数や視聴率のために、どんどん見出しをシンプルにわかりやすく過激に作っていますし、それを誰かが SNS でシェアするとどんどんバイアスがかかってしまうので、表層だけを見て判断するのは危険だと思います。バズってるものほど発信元が見えなくなっているので、疑った方がいいです。

例えば1つの記事に対して、一次情報を発信している媒体、当事者の意見、専門家の知見など探し出して、複数の視点で情報を見るようにしています。「真実を突き止めてやる!」と探偵になったつもりでニュースを見るのがオススメです(笑)。

今朝も、とある外資系企業の『破産』が見出しになっていたんですが、よくよく記事を読んでみると破産ではなく、現地の民事再生法の申請の段階で、事業も継続予定でした。見出しだけを見た人は「あの会社は倒産したらしい」とか「あそこのサービスを使うのはやめよう」ってなりますよね。「終わった」みたいな表現で拡散されていってしまうのは怖いですよね。でも、そういう表現の方がニュースより拡散されやすい。一次情報発信側はデマを流していないのに、受け手の二次拡散でデマになってしまう。それが『買い占め』などの行動につながると、危険ですよね。

メディア側の過激な情報の出し方と、情報の取捨選択や読み方の方法を学校教育で学んでこなかった受け手側との間に発生する『ねじれ』が、最近ではかなり問題だと思います。ネットの情報量は増えていってますが、読み手が『ファクトチェック』する能力は追いついていない。事実の解釈が拡散により歪んでしまう現代だからこそ、ファクトを提供するべきメディア側は、より一層PV数にこだわらず、責務を果たさないといけないと思います。拡散を見越したファクトの情報伝達ですね。

夏代さんはそういったスキルをどこで身につけたのですか?

中国は、メディアに出ている情報と、政治や経済を回すために意図的に出していない情報があって、それを公言しているような国なので、“すべての情報には裏がある”という意識のもと、育ってきました。なので日常的にメディアの情報を鵜呑みにせず、自分でファクトチェックする習慣が身についているんだと思います。日本人って何かを言われると「まず信じる」人が多いんですけど、中国人は「まず疑ってかかる」んですよね。

あとは日本と中国という政治的にセンシティブな両国で育ったので、情報における政治の視点のバイアスに幼い頃から気づいていたのも大きいです。同じ事件でも両国の視点が違う。これはマクロな視点でもミクロな視点でも当てはまることです。なので、子どもの頃からメディアに翻弄されるだけではなく、両者の意見を客観的に見た後で自分の意見を持つ大切さを身につけました。大学でも興味が高じてジャーナリズムを専攻していたので、やはりそういった環境の影響が大きいです。

学生からは「情報の取捨選択がなかなかできない」という声が多く上がっていますが、それに対してどう思いますか?

今の SNS って、情報を発信してバズらせてるのは大人が多くて、大人同士のコミュニケーションツールになってしまっている。その SNS を、まだ社会人経験も知識もない学生が利用するのってかなり難しいことだと思うんですよね。追いついたつもりでいても、追いつけていない。

本来なら義務教育でもっとファクトを見極めるための勉強をしないといけないと思うんです。学校ができないのであればメディアを運営する企業や新聞社が、『大人』として善意でファクトシンキングを啓蒙するべきだと思います。

「大人にはもっと多様性を受け入れてほしい」という声も多かったです。

うーん。そもそも日本人は多様性を受け入れるって得意じゃないと思うんですよね。例えばアメリカみたいにすぐ隣に違う人種の違う宗教の人がたくさんいる大国が、長年にわたって多様性を説いてきましたが、それでもいまだに差別が多いっていうくらい難しい。一方中国は人口が多すぎて他人にあまり興味がない。選挙も直接関与しない制度だし、自分と自分の家族を幸せにするために生きればいいんですよね。それが逆に、多様性の容認につながっていると思います。

日本における多様性の教育はとても難しく、一億総中流だからこそ、他人と比べて激しく違いを感じるということがあまりない。さらにリアルなコミュニティへの帰属意識が高く、多様性を容認するよりも己のコミュニティを保護する方に意識が向いてしまう。そのコミュニティ下では声が大きい人の前ではどうしても萎縮してしまうんですよね。SNS もそうですけど、発言力がある人が何かを言うと、反対の意見が言いづらい。

サイレントマジョリティーが増えていく構造なのは仕方がないかと思います。なので、「自分の小さなコミュニティからまずは多様性を認めていく」ということをした方がいいと思うんです。まだ社会に出てない学生こそ特に。そのコミュニティの中にだっていろんな考え方の人がいるはずだから、ちゃんと会話して理解し合って、いろんな視点を共有してファクトにたどり着くのが大事だと思っています。若い頃に反対意見を許容したり議論したりする習慣をつけた方が大人になった後の世界は広がると思います。私たち大人もそうですが 、政治のこと選挙のこと、差別のこと、本音で話し合える相手って実は大人になっても少ない。きっとおばあちゃんになってもそうなんじゃないかな(笑)。

新聞は読みますか?

日本の新聞は SNS の公式アカウントをフォローしていて目にとまったものを時々読みます。中国の新聞は5年ほど前からほとんどがニュースアプリになっているので、簡単に見れることもあってそれで読んでいます。それと、シンプルに情報量が日本の新聞の14倍あるので、電子版はその人の興味関心に特化したインターフェイスになってきました。コロナ関連のニュースも日本の情報より早いし、世界中の情報を網羅していてわかりやすいんですよね。的確な情報を数字ベースで出してくれているんです。アプリのデザインも進んでいるのでとても見やすいですね。世界的にも華僑ネットワークが広がっていて、世界中の最新情報が集まりやすいのではないでしょうか。日本の状況も中国の新聞の方が客観的に詳しく書いてくれていますね。

日本の新聞に思うことはありますか?

中国の新聞って国内外の情報の比重が同じなんですよ。なので読み手側も中国を他国と比較することができるので、自分を客観視しやすくなる。「情報がコントロールされている前提」という意識は持ちつつ、いろいろな視点で物事を捉えようとするので『ファクト』にたどり着きやすい。その反面、日本のメディアは、ほぼ日本のことしか書かないですよね。それだと客観的に物事を捉える力が養えないですし、ファクトシンキングができなくなってしまう。「今日の感染者数」という情報は確かにファクトですが、実際それがどこの何と比べて多いのか少ないのかもわからないし、その裏側を読み解く力をこちら側に委ねるからにはこちらにもスキルが必要ですよね。なので新聞を読むなら、新聞だけではなくいろんなメディアと合わせて多面的に見るのが大事かなと思います。1つの情報を鵜呑みにしないという意識が大切だと思います。

ちなみに夏代さんって就活はしましたか?

私は大学在学中に企業でバイトをしていたのですが、就活というよりバイトをバイトだと思わず、社員のように責任感を持って取り組んだ結果、そのまま雇ってもらったっていう感じですね。それが私の就活スタイルかもしれません(笑)。当時から東京ガールズコレクションのアジア展開を担当していました。とにかく責任を持って真面目に働いたらここまで来たという感じです。

学生時代に夢やキャリアプランっていうのはありましたか?

なかったです。まったく。私はたまたま運良く今に流れ着いていますが、やる気が出る仕事が結局好きなことだったんだなと。でも、あったほうがいいと思いますよ、キャリアプランは。自分の行動は自分の想像を超えないので。

学生に向けてメッセージはありますか?

世の中には SNS をやっていない人や、声を上げたくても上げられない人たちがたくさんいるので、SNS だけが世界ではないってことを理解してほしいのと、これは自分を励ますためのメッセージでもあるんですが、「必ず真実が勝つ」と信じています。たくさんのデマのせいで真実が見えなくなってしまったとしても、結果的には真実が残ると思っています。

なので、情報に向き合う時に注意してほしいのは、ファクトチェックをしっかりやってそうなアカウントやメディアを見極めるのが大事、ということです。あとは、「いいね」の数や見出しだけを真に受けず、気になった記事は最低でも3つの視点で見るようにしてください。一次情報を発信しているメディアと、当事者たちの声、専門家の声。そうするとだんだん真実に近づけると思います。そのスキルは、自分で努力して育むしかないと思いますので、みなさんがんばってください。

記事公開日:2020年5月23日

陳暁夏代
NATSUYO CHINSHO
日本と中国にルーツを持ち、2009年からフリーで中国で数々のイベントの司会・通訳を行う。2011年から芸能事業に携わり、北京・上海・シンガポールでファッションイベントの企画運営を行う。2013年には東京に拠点を置き、広告代理店で企業のブランディングや商品の開発から販促まで幅広く手がける。2017年に独立。以降は中国へのアーティスト斡旋やイベントの企画実行、日本の知的財産権の中国輸出など、両国のコンテンツ産業の橋渡しに力を入れている。

https://www.chinshonatsuyo.com

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