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STAND UP STUDENTS Powered by 東京新聞

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いま、わたしたちのまわりで、
起きていること。

毎日の勉強や、遊びに恋愛、就活。普段の暮らしの中では見えてこないたくさんのできごと。環境のことや政治、経済のこと。友達の悩みも、将来への不安も。小さなことも大きなことも全部、きっと大切な、自分たちのこと。

確かなこと。信じること。納得すること。コミュニケーションや、意見の交換。
あたりまえの自由さ、権利。流れてきた情報に頼るのではなくて、自分たちの目で耳で、手で、足で、感動をつかんでいく。

東京新聞『STAND UP STUDENTS』は、これからの社会を生きる若者たちに寄り添い、明日へと立ち向かっていくためのウェブマガジンです。等身大の学生たちのリアルな声や、第一線で活躍する先輩たちの声を集めることで、少しでも、誰かの明日の、生きる知恵やヒントになりたい。

時代を見つめ、絶えずファクトチェックを続けてきた『新聞』というメディアだからこそ伝えられる、『いま』が、ここに集まります。

STUDENT VOICE

平石莉里子

20歳

STUDENT VOICE

困っている人たちに
「知るきっかけ」を

平石莉里子 20歳

困っている人たちに
「知るきっかけ」を

大学では社会福祉士になるために勉強しているんですが、学べば学ぶほど貧困による教育格差が気になります。生まれた環境によって学びたくても学べない人たちがいて、“知らない”というだけで社会に搾取されてしまっている。間違った情報を信じたり、偏見を生んだり、自分の権利を守るための制度を知らずに使えないでいたりする。だから、いろいろな人が平等に「知る」ためのきっかけがあるといいなとずっと考えています。私もたくさんの人にあっていろいろ知って、社会で生かしていきたいです。

新聞やニュース、メディアについて
聞かせてください
新聞は実家で読んでいたんですが、世の中で起きたことがすぐに記事になっていて、でも情報が溢れる SNS よりもわかりやすく整理されているなと感じました。1つの記事にもたくさんの人が動いてるんだなということがわかるし、信憑性もあるなって。でも理想を言えば、自分の目と耳で見たり聞いたりして、自分で考えた方がいいんですよね。
東京新聞の記者に
聞いてみたいことはありますか?
今まで記者として仕事をしてきて、自分の考えを変えることになった取材や情報はありますか。その中でも一番影響が大きかった体験は何ですか?


掲載日:2022年8月31日

回答 あり

東京新聞 特別報道部 木原育子から

まずは、東京新聞に目を留めていただき、質問してくださってありがとうございます。

質問についてですが、少し考え込んでしまいました。何でしょうね。「今思えば⋯」という条件付きですが、強いて言うなら2018年から3年ほど警視庁担当として事件を取材した経験は、少なからず私の人生に影響を与えたのかな。そんな風にぼんやりと思っています。

当時、事件の真相を自分の目と耳で知りたいと、刑務所や拘置所、不起訴になって釈放された方のご自宅などに、実際に会いに行っていました。かばんの中身は、便せんが何よりの必需品。面会がかなわない時は手紙を頻繁に書いていましたね。

実際に会ってみると、そこには、いわゆるドラマや漫画で出てくるような「犯罪者」や「悪人」は正直、いませんでした。多くは、福祉が必要な人たちの存在だったように思います。

今もよく思い出すのは、年老いた父の死を周囲に言えず、警察に死体遺棄容疑で逮捕された女性=当時59歳=のことです。父娘は長く2人暮らしで生きてきて、女性は知的障害ではないけれど、少し配慮が必要とみられる人でした。恐らく、警察ではなく福祉につながらなければならなかった人かと思います。

ご自宅での取材中、私はその女性に「どうして助けを求めなかったのですか」「なぜ警察に言えなかったのですか」と質問しました。私にとっては「質問」でも、女性にとっては「尋問」のように思えたでしょう。女性は、子どものように泣き出してしまいました。私は何もできず、どんな言葉をかければいいのかも分からず、ただずっと背中をさすっていました。

その時、福祉のことをもっと学ばなければ⋯、福祉の輪の中に入っていかなければ一生本質はつかめない⋯。そんな漠然とした思いがふつふつとわき起こりました。その後、一念発起で通信制の大学に入学。仕事と両立しながらの猛勉強は苦しかったですが、今年、社会福祉士の国家試験に合格できました。平石さんも社会福祉士を目指しているとか。何だかうれしいです。

ここからは私見ですが、社会福祉士と新聞記者は、確かに立ち位置は違うかもしれませんが、実はとても重なる部分が多いと思っています。社会福祉士がもつケアの視点は今後、新聞記者にとって欠かせないものになってくると思います。

例えば、事件取材で言えば、被害者や遺族の取材です。取材ということで、ただ話を聞かせてもらうだけではなく、社会福祉士のケアの視点や相談支援の手法は必須になってくるかと思っています。

かつての私がそうだったように、記者は仕事柄、「なぜ」という WHY を追求しながら真実に迫ろうとします。福祉は「あなたはどうしたい?」「どうする?」と、どちらかというと HOW の質問を中心に、その人の思いを引き出していきますね。最終的に同じ核心にたどりつくにしても、この違いはとても大きい。誰のために、何のために伝えるのかを再確認しながらの歩みは、報道の「質」みたいなものも変えられるかもと思っています。

2017年の座間事件も担当しました。あまりに凄惨な事件で、遺族への取材は許されず、弁護士を通さなければ手紙一つ届けられませんでした。1年後、事件を振り返る記事を本紙は2ページ見開きで伝えました。ただ、そこに、被害者にまつわる写真や大型記事は掲載しませんでした。取材が許されなかったということもありますが、被害者が一番好きだったもの、その被害者を象徴するものを絵で表現することにしました。優しい筆遣いのタッチの絵が紙面いっぱいに広がりました。


(2018年10月30日付の東京新聞朝刊 26面・27面)

今思えば、この紙面もケアの視点で伝えた事例の一つだったかと思います。事件の痛みを社会で共有し、被害者や遺族の心を少しでも癒やしていきたい。そんな思いを届けたつもりでした。記者の論理よりも、被害者遺族の気持ちとともに歩んでいく。もしかしたら、その頃から社会福祉士の視点を実践しようと思っていたのかもしれません。

平石さんのメッセージに「自分の目と耳で見たり聞いたりして、自分で考えた方がいいんですよね」という言葉がありました。まさに、不寛容な時代に突き進む中で、その視点はとても大切になってくるかと思います。福祉の現場でも、新聞記者の現場でも、どの現場に行っても、それは変わりません。平石さんにしか聞けない「声」があると思います。どうか心の耳を澄まして、その心の音をくみ取って、平石さんに多くの学びが降り注ぎますようにと思っています。平石さんの明日への一歩が輝かんことを―。長くなってごめんね。

木原育子
2007年入社。石川、滋賀、静岡での勤務を経て、東京社会部で警視庁や都庁、「戦後70年取材班」を担当。現在は特別報道部。趣味はヨガで、インストラクター(RYT500取得)としても地域貢献中。41歳。


回答掲載日:2022年10月7日
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