20代女性として消滅可能性都市に住むこと
文・木村えま
絵・堀井美沙子
今年4月、実家に帰っていたときのことだ。地元である福井の新聞1面を見たら、「消滅の可能性」というインパクトのある見出しにどきっとした。
私の育ったところはどうだろうか、と同じく1面に載っていた「消滅可能性都市」の一覧を確認すると、一覧に含まれていて、ああ、やっぱりかあと妙に納得した。地元の同級生たちは半分ほど福井を離れると聞いていたし、子どもが少なくなり中学校のクラス数が減ったということも知っていた。消滅しそうか存続しそうかと言われると、確かに消滅しそうなほうではあるなあと思ったのである。
私の地元では、路線バスが利用者不足から次々と廃止になった。車を運転できなければ生活できず、子どもやお年寄りの移動手段がない。高齢化が進み、空き家が増えた。田んぼ管理など地域運営の方法が今まで通りではいかなくなり、若者の負担が増えている。このままどうなってしまうのだろうか、と時々思う。
「消滅可能性」の判断基準は、子どもを産む中心世代である若年女性人口が2020~50年の30年間で半減するかどうか。これに基づくと、いま22歳・女性の私は、今後20年弱は子を産む可能性のある人間としてデータ上で数えられていく。自分の、人間としての機能や生産性を測られているような感じがして、どうにも気持ち悪かった。
「消滅可能性都市なんてものは信ぴょう性がなく、ただ注目を集めたいだけ、真に受けてはいけない」と同じ1面にあるコラム欄。
そうやって切り捨てることは簡単だけど、地域の衰退が実感としてある以上、みんなが知っておくべき問題だと、私は思う。
「消滅可能性都市」はそのキャッチーな名称からネットでも注目され、テレビでも取り上げられていた。たまたま見かけたワイドショーで、消滅可能性都市の話題から子育て支援や少子化対策の話がされていた。コメンテーターも専門家もメインアナウンサーも50代以上の男性で、みんな眉間にしわを寄せて制度の改革について活発に議論していた。アシスタントの若い女性アナウンサーが何も言わずに頷いている様子に、地元を重ねてしまい、もどかしかった。
私が生まれ育った福井は、昔から女性の社会進出が進んでいる地域と言われている。周りの家庭はほとんど共働きで、「専業主婦のお母さん」をしている人に今まで出会ったことがない。三世代同居をしている家庭が多く、学校から帰ってきた子どもたちは祖父母に子守りをしてもらっている。
私もそうやって育った。祖父母なしでは、きっと私の子ども時代は寂しく不便なものだっただろう。
県は女性の働きやすさや子育て支援の手厚さを「幸福度日本一」と謳っている。確かに女性の就業率やフルタイム率は高い。だが、フルタイムでの男女間賃金格差が大きく、女性の管理職が少ない。社長の男女比にいたっては全国45位だ。
祖父母が孫の子守りをするといっても、女性側が家事とともに子どもの世話を担っていることが多い。他の地域でも見られることかもしれないが、年齢が高ければ高いほど、男性が家事をするという感覚があまりないのだろう。
福井にいる多くの女性は、出産してから孫が育つまでずっと、家事や子育てなどの家の仕事と、「社会人」として賃金を得る外の仕事を両立しなければならなかった。家族の介護が必要になった際も担うのはほぼ女性。家事をする男性に対して、「奥さんが厳しいんだね」とか「家事するなんて偉い、すごい」と言うところをこれまでに何度も見た。男性も女性も外で仕事をしていることには変わりないのに、性別で家事の力量は違うはずないのに、どうして。
「それはおかしい」とは言えない雰囲気や、そのおかしさが当然のものとして生活に馴染んでしまっている上の世代の「見えない圧」。最近は三世代同居も減っているが、この風潮はまだあると思う。
私は地元で就職活動をしようと思って、インターンや説明会で社会人の方と話す機会が何度かあった。
「公務員だったら、結婚しても子どもを産んでも帰ってこれるよ。管理職になる女性も比較的多いし。民間のほうでは、女の人がお茶汲みさせられることもあるらしいけど、公務員ならそんなことないよ」
市役所へ行った際、育休から復帰したばかりだという女性が話してくれた。正直、女性がお茶汲みをするというのは過去のもので、昔のありえない話として扱われているものだと思っていたので、私はびっくりした。
その後、メーカーやマスコミなどへも出向き話を聞いた。管理職の女性の少なさ、正社員の数の男女比、男性が育休をとることの難しさ。それまで知らなかったことがあまりにも多く、これからが不安になった。学生生活に男女の区別はほとんどなかったのに、社会に出るとそうはいかないらしい。
「消滅」しそうと言われている地域に、20代の女性として住むことは結構厳しいことなのかもしれない、と、じわじわ思いはじめた。就職活動を通して、自分の将来を考えるようになって、地元の足りないところがどんどん見えてきた。これから地元に戻って働きはじめたら、もっと足りないところを見つけてしまいそうだ、とも思う。
これは私の地元に限った話ではない。これまで通りを続けたら、きっと破綻するし、破綻のはじまりがもう見えている。それでも、私たちはこのまま見て見ぬふりをするのだろうか。「消滅」なんてするはずないと切り捨て、田舎なんてみんなこんなものだろうと言い続けるのだろうか。
若者が外に出ていくから、結婚しない人が増えたから、女が子どもを産まないから、とか押し付けないで。仕方ない、と切り捨てないで。
2024年11月15日
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- 木村えま
- Ema Kimura
※ 木村えまは今回のエッセイのためのペンネームです
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イラスト:堀井美沙子
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