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STAND UP STUDENTS Powered by 東京新聞

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いま、わたしたちのまわりで、
起きていること。

毎日の勉強や、遊びに恋愛、就活。普段の暮らしの中では見えてこないたくさんのできごと。環境のことや政治、経済のこと。友達の悩みも、将来への不安も。小さなことも大きなことも全部、きっと大切な、自分たちのこと。

確かなこと。信じること。納得すること。コミュニケーションや、意見の交換。
あたりまえの自由さ、権利。流れてきた情報に頼るのではなくて、自分たちの目で耳で、手で、足で、感動をつかんでいく。

東京新聞『STAND UP STUDENTS』は、これからの社会を生きる若者たちに寄り添い、明日へと立ち向かっていくためのウェブマガジンです。等身大の学生たちのリアルな声や、第一線で活躍する先輩たちの声を集めることで、少しでも、誰かの明日の、生きる知恵やヒントになりたい。

時代を見つめ、絶えずファクトチェックを続けてきた『新聞』というメディアだからこそ伝えられる、『いま』が、ここに集まります。

STUDENT NOTE

16
渡辺晏子
Ako Watanabe

小さな声に耳を傾け、社会のこと、これからのこと、身近なことを一緒になって考えていくために、学生が書いたエッセイを『STUDENT NOTE』としてお届けしています。

日々の暮らしの中で思ったこと。SNS やニュースを通じて感じたこと。家族や友人と話して気づいたこと。もやもやしたままのこと。同世代の学生が綴る言葉が、誰かと意見を交わしたり、考えたりする<きっかけ>になればと思っています。

第16回は、自身の「摂食障害」というつらい経験から、ルッキズムやフェミニズムなどの社会問題や、過剰な消費を促す社会の歪みについて考えるようになった渡辺晏子さんによるエッセイです。

わたしたちはもっとずっとenough

文・渡辺晏子
絵・坂田藍美


給⾷の献⽴よりも先に、何キロカロリーか気になる。思い返せばそんな10代を過ごしていました。私は今のままでは醜くて、もっとやせていなきゃいけない。細くなければ、何もかもうまくいかないと信じていました。

高校3年生になると、「東京に出て、洗練されたオシャレな日常を送りたい!」という安直な考えで都内の有名大学を志望し、本格的に勉強に励むようになりました。そんな中で、思うように結果が出ないストレスから、無心にチョコレートやコンビニスイーツを口にするようになりました。その1年で体重は8キロくらい増えて、周りからも「太ったね」なんて言われるように。12月頃でしょうか、塾の自習室で、シャープペンシルを持つ自分の手が憎くて、涙が出た時のことはよく覚えています。

結局、志望した大学どころか、受験した大学全てから不合格通知が届き、最終的には、いとこ家族が住んでいることもあって、カナダのカレッジに進学しました。

カナダという広い土地で、心機一転がんばろうと試みるも、私の感性は狭いままでした。私がもっとやせていたら学校のクラブ活動にも⼈前に出るバイトにも挑戦していたのに。私がもっとやせていたらみんなに話しかけられていたし、もっと英語が上⼿くなっていたのに。私がもっとやせていたらパーティーに出てくるピザやアイスクリームもカロリーを気にせず、みんなと⼀緒に笑って⾷べられたのに。

そんな風に考え続けて、「あの⼦太ってるよね」と思われるのが怖くなり、部屋にこもる⽇が増えていきました。誰にも会いたくないという気持ちから、宅配や、すぐにピックアップできるような惣菜や、ファストフードを胃に詰め込むようになりました。そのあとで時には吐いたり、⼝に含んで飲みこまなかったり、次の⽇からは断⾷しながら何万歩も歩いたり。「⾷べること」にとらわれて抜け出せないジレンマがとても苦しかった。


そんなある⽇、久しぶりに開いた SNS でオーストラリアの⽕災のニュースを⽬にしました。自然の中で燃える炎が、現実に起きているとは考えられない程に恐ろしく、寮の小さな部屋で⾃分の体型に悩んでいることが、すごくちっぽけなことに感じたのを覚えています。遠く離れたオーストラリアのその写真を見てからは「今、地球では何が起きているのか」を改めて考える時間ができました。

⾃分の体型を憎んで泣いている裏側で、私は、本当はもっと⼤きな問題を抱えている。

私たちの住む地球を守り抜くには? 自分よりも若い世代の子たちに望みのある環境を作り出すには? 罪のない動植物たちの被害を拡大させないために私にできることは何だろう。と、久々に「食べること」や「痩せること」以外で頭がいっぱいになりました。

もともと環境問題には関心があったので、食生活が地球に大きな影響を与えることは知っていました。今までは目を背けていたけれど、できることは全てやろうと決心して、その日のうちに「ヴィーガン」としての生活をはじめました。

ヴィーガンとは、自分の生活から、動物性の食品や製品を取り除いた生活を送る人たちのことを指します。動物愛護の視点からそうなる人が多いと思いますが、私のように、環境保護を切り口にヴィーガン生活をはじめる方も多くいます。動物性食品が環境に悪いというのはあまりピンと来ないかもしれませんが、畜産業が生み出す温室効果ガスは、世界の温室効果ガスの総排出量の約14%と言われています。これは、家畜が出すゲップやおならが主な原因だそうです。

ヴィーガンとして、久々に野菜をたっぷり使って⾃炊をした⽇。意外と植物性のものだけでもおいしいって感じるんだなとか、⾃分の⾝体や⼼との対話が生まれたと思います。それまでは泣きながらジャンクフードを⾷べていたけど、⾃分の心と対話し、環境にポジティブなアクションができているという充⾜感で満たされていった感覚がありました。

⾃分は⾷べることでしか嫌なことや悩みを解消できない。それが原因で太ってまたつらくなる。時には吐いたりする。意志が弱い。なんにも⽣産しない。なんて最低な⼈間なんだ。そんなふうに思い込んでいた私が、⾷べることに初めて前向きな意味を感じられた瞬間でした。

だけど、そんなふうに私が悩みを抱え込んでいたのは、なぜだろう。


そういえば日本では、⼗分やせている友達なのに「ダイエットしなきゃ」とか「最近太ってやばい〜」なんて会話が普通にあることを思い出しました。

私がカナダで「やせるためにとにかく運動しよう」と⾏ったジムには、「ヘルシーな⽣活を送りたい」とか「運動するとスッキリする」という⽬的で通う人が多かった印象です。もちろん全ての⼈がそういった考えではないでしょうが、⽇本で暮らしていた頃よりも確実に「人々の外⾒⾄上主義への固執感」を感じることは少なかったです。

でもその時の私は「とにかく誰も⾒ないでほしい」とか「昨⽇たくさん詰め込んじゃったから4時間くらい運動しなきゃ」とか考えて、誰も近づきたくなくなるくらいどんよりしていたと思います。そんな私に笑顔で Hi と⾔ってくれた現地の人たち。カナダで2年間の生活を終え、日本の大学に編入学をした今、そのオープンな環境が今でもすごく恋しかったりします。

カナダと⽇本の違いが⾒えてきた時、Twitter で #摂⾷障害 など、⾃分が抱えている問題について検索してみると、同じような気持ちで同じような⽣活を送っているたくさんの⼥の⼦の投稿が出てきました。

「摂食障害って治るのかな。一生抜け出せられない」
「やせなきゃと思うほど食べちゃって泣けてくる」
「今日は吐けない。つらい⋯」

「ああ、私だけじゃないんだな」と安⼼すると同時に、住んでいる場所も違う出会ったことのない私みたいな人たちが、どうしてこんなに同じ苦しみ⽅をしているのかを考えはじめました。

私たちに共通するのは、「過剰な消費を促す現代社会で生活をしているということ」ではないか?


今の時代は、SNS を開くたび、たくさんのグルメやスイーツのコンテンツが出てきます。それから、細いのにたくさん⾷べてニコニコしているインフルエンサーや、映えを狙って⼤量の⾷材が使われた料理。いくつかグルメ情報を⽬にした後は、これがあればやせる!とか、2週間で5キロやせた⽅法とか、ダイエットも勧めてくる。⾃炊する時も、意識すべきは、安くて時短で、やせるメニューかどうか。

ファッション雑誌を開けば、細くてかわいいモデルさんの写真をたっぷり見た後に、今話題のスイーツ特集。次のページでは「プールにそんな⾝体で⾏くつもり?」なんていう決まり⽂句と⼀緒にダイエットを推奨する。そして最後には、⾷べたことを “なかったことにする” サプリメントのプレゼント企画。おしゃれでおもしろくてかわいいコンテンツから、ものすごく恐ろしい圧⼒を感じます。なんだか毎⽇何かと競争させられているような、「お前はまだ努力が⾜りない、満⾜するな」と⾔われているような気さえします。

本当は、美しさの正解なんてないですよね。
外見が人の存在価値を定めることも本来ならないはずですよね。

あなたがもし、以前の私と同じ悩みや思いを持ちながらこれを読んでいるなら、「自分が弱いのだ」と自分を責めないでほしいです。自分の「問題」だと思っていたことが、社会の歪みによって形成されたものだった、ということがよくあるような気がします。

私は「自分の体型」というミクロな視点が、フェミニズムや、メディアの影響といったマクロな視点に発展しました。もちろんつらい経験や、自分の中で根付いていた「美しさの社会的基準」を完全に払拭するのは、まだまだ長い道のりだと感じます。

それでもあの時の経験が、社会に疑問を持つことや、同じ境遇の人たちをエンパワーメントできる人になりたい、という今の私に直結していると感じます。

あなたが個人的な悩みをもっと大きなスクリーンに映す、そのきっかけになればうれしいです。

2023年4月21日

※ エッセイへのご感想やご意見がありましたら STAND UP STUDENTS の公式インスタグラム へ DM でお送りくだくか、匿名でも投稿できるフォームにお送りください。STAND UP STUDENTS では、今後も、学生たちがさまざまな視点で意見や考えを交換し合える場や機会を用意していきます。お気軽にご参加ください。

渡辺晏子
Ako Watanabe
2000年生まれ。気候危機や、多様性への課題。人権問題についてアクションを起こしています。今は、ポップカルチャーと気候変動やフェミニズムとの “つながり“ に着目した、新しいキャンペーンを製作中です。

Instagram:@3_is_earthchild

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イラスト:坂田藍美
https://www.instagram.com/sakataaimi/

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