「違い」を理解しよう 声を上げよう
~人に寄り添うことが当たり前の社会へ~
文:玄蕃莉子
絵:ワタミユ
世の中には多種多様な人たちがいます。
すべての人が、生まれ育った環境や、触れてきたもの、見てきた世界が違います。人それぞれ「違う」ことが当たり前なはずなのに、自分とは「違う人」に対して、どうして傷つけたり、避けたりするのでしょうか。心理学部での学びや経験がきっかけとなって、いつしかそんな社会の風潮に対して、疑問を感じるようになりました。
中でも「福祉心理学」や「障害児・障害者心理学」では、さまざまな事例に触れることができるのですが、「障害者だから挑戦できないことだらけ」「家庭環境に恵まれなくて人生をあきらめた」という人たちがたくさんいるということが、強く印象に残っています。
ちゃんと能力もあるし、一生懸命がんばっているのに生まれ持っての「吃音」が原因で面接時に笑われ、就活がうまくいかないと悩む男の子。幼少期から、保護者による虐待を受けてきたという女の子は、衣食住さえ不十分で、しかも家庭での愛情を受けられない中で生きていました。愛されたことがないから人間関係の築き方がわからず、友達も好きな人もいない。彼女が言っていた「親ガチャに外れたんです。私は運が悪かった」という自分を責める言葉に、心が痛くなりました。
そのような状況に対して社会が向ける目は、表向きは優しいものもありますが、「障害者と関わるのは大変」「結婚する時の相手の家庭環境は気になる」「虐待を受けた人と子どもを持つことに抵抗がある」という考えを持っている人もたくさんいる、という現実も知りました。
私は、生まれた環境や障害のようにそれぞれが持っている「特性」によって、つらく悲しい思いや、苦しい思いをする人がいる世の中は良くないと思っています。「一般的」「普通」という価値観から少しでもはみ出たら「一般的でなく普通とは違う人」という感覚になり、生きづらくさせてしまう世の中は残酷だと思います。
例えば、私のアルバイト先には、順序だててものごとを行うことが困難だというハンディキャップを抱えている発達障害の方がいます。しかもこのハンディキャップは目に見えるものではないのでなかなか周囲に理解されにくく、ミスをしては怒られる場面を毎日のように見ていました。時には理不尽なことで怒られたり、怒る側もヒートアップしてしまうのか、発言が攻撃的になってしまっている時もあり、本人の心理的な負担が大きくなりすぎているのは、誰が見ても明らかでした。
「その人の特性に合わせた仕事の割り振りを行えたらいいのに」
そう思っても、学生の私は職場では最年少。しかも新しく入ったばかりのアルバイトの身分⋯。なかなか自分から言い出すことはできませんでした。でも、なんとかこの状況を変えたい。そこで私は、特性を理解して,安心して仕事ができる環境にしていく方法は必ずあるという思いを文章にし、新聞に投稿することにしました。
後日、私の思いが掲載された新聞を、職場の方々に読んでもらえることになりました。それがきっかけとなって、職場の環境改善に向けた話し合いの機会を設けることができたのです。仕事の割り振りを見直すことで、職場環境が徐々に改善し、少しずつみんなが働きやすい環境に変わっていきました。障害の有無にかかわらず、それぞれの特性を生かすことができるようになったおかげで、全体の業務時間の短縮にもつながりました。
人にはいろいろな「違い」があることが当たり前です。それぞれが、自分らしく輝くことができるように「違い」を「理解し合う」ことが大切です。すごく勇気のいることでしたが、行動に起こしてよかったと思っています。
大学生が声を上げようとすると「まだ社会に出ていない、学生の身分でしょ。それは社会を知ってから言おうよ」そんな目を向けられることがあります。
しかし、数十年後の未来を担うのは私たちです。すべての人が生きやすい社会にするには、次の世代を担う私たちが声を上げることが大切だと思います。しかも特定のコミュニティの中の人たちだけではなく、いろいろな立場の人たちが声を上げることが必要です。そして声を上げられない人の声も拾って、広げていくことが「すべての人が生きやすい社会」を実現するための手段だと思います。
世の中には、心に傷を抱えた人がたくさんいます。その心の傷は簡単には消えないことを心理学部で学びました。だから、どんな環境に生まれても、人生の途中でどんな心の傷を抱えたとしても…その傷を抱えながら、豊かに、幸せに生きていけるような社会を目指したいです。人に対して偏見を持つのではなく、それぞれの「違い」を理解して寄り添っていくことが、当たり前の社会になったらいいなと思っています。
大学卒業後、私は心理学専門の公務員として、さまざまな「違い」によって生きづらさを感じている人たちの心のケアに尽力したいと考えています。公務員として社会環境の整備に携わる際には、さまざまな「声」を拾い集めて、新たな取り組みに生かし、すべての人が、より豊かに生きることができる社会が実現できるよう、貢献していきたいです。
2021年9月17日
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- 玄蕃莉子
- Riko Genba
フィギュアスケート部に所属していました。今は見る専門。
趣味は音楽を聴きながら文章を書くこと。
残りの大学生活は卒業研究を進めながらのびのび過ごします!
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イラスト:ワタミユ
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