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STAND UP STUDENTS Powered by 東京新聞

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いま、わたしたちのまわりで、
起きていること。

毎日の勉強や、遊びに恋愛、就活。普段の暮らしの中では見えてこないたくさんのできごと。環境のことや政治、経済のこと。友達の悩みも、将来への不安も。小さなことも大きなことも全部、きっと大切な、自分たちのこと。

確かなこと。信じること。納得すること。コミュニケーションや、意見の交換。
あたりまえの自由さ、権利。流れてきた情報に頼るのではなくて、自分たちの目で耳で、手で、足で、感動をつかんでいく。

東京新聞『STAND UP STUDENTS』は、これからの社会を生きる若者たちに寄り添い、明日へと立ち向かっていくためのウェブマガジンです。等身大の学生たちのリアルな声や、第一線で活躍する先輩たちの声を集めることで、少しでも、誰かの明日の、生きる知恵やヒントになりたい。

時代を見つめ、絶えずファクトチェックを続けてきた『新聞』というメディアだからこそ伝えられる、『いま』が、ここに集まります。

先輩VOICE

04
天野清之
KIYOYUKI AMANO

鎌倉を拠点に『つくる人を増やす』をコンセプトに掲げ、ゲーム・広告・Webサービスなど、『面白い』コンテンツを次々とリリースするクリエイター集団『面白法人カヤック』。ユーモアとセンスに溢れたクリエイティビティの評価も高く、また一方で、サイコロで振って給料を決める『サイコロ給』や、社員の似顔絵を描いた『漫画名刺』など、会社自体の制度も面白く、メディアでもたくさん取り上げられてきました。「まずは自分たちが面白がろう」「周囲からも面白い人と言われよう」「そして誰かの人生を面白くしよう」。そんな思いが込められた面白法人から派生し、面白法人カヤック“Rewrite(リライト)”として秋葉原に新たにスタジオを構えることになったディレクターの天野清之さんに、情報との向き合い方や就職活動についてのポイントなどを聞きました。

普段はどういうお仕事をされているのですか?

カヤックの中でもチームがいくつか分かれているのですが、僕のチームでは *xR を専門にしています。企画を考えて、プログラムとデザインを使った展示やアプリ、WEB、映像の演出をするのがメインで、特に『からかい上手の高木さん』のVRアニメや、『魔法少女まどか☆マギカ外伝』、『ワンピース』等、人気アニメとのコラボレーションが多いです。あとは映像のクオリティーやパフォーマンスを上げるためのツールやソフトウェアの開発も自分たちでやっています。

*xR … クロスリアリティ。AR(拡張現実)や VR(仮想現実)などの総称。

ソフトウェアの開発までするディレクターって珍しいですか?

そうですね。開発は僕らの得意な分野でもあります。映像制作って、企画を練って、コンテを書いて、一度決めたコンテ通りに作り上げていくっていうやり方が基本だったんですが、この『積み上げ型』のクリエイティブで一度作り始めてしまうとやり直しがほんと大変で、めちゃくちゃ時間かかってたんですよね。でも、作っている途中でアイデアが生まれたり意見が出たりするものじゃないですか。でも戻れない。それなら映像の処理速度をあげるソフトウェアを開発しちゃえば、現場の作業負荷を減らすこともできるし、常に外部の意見を柔軟に取り入れることができるので、その時のベストなクリエイティブが目指せるなと。一度開発したソフトウェアは応用もできますしね。「変化や意見を受け入れながら高いクリエイティブを」というのが僕らのチームのいいところですね。

カヤックに入ったきっかけはなんですか?

前職はアニメや映像を制作する会社で CG を作ってました。10年以上前です。プロジェクションマッピングやインスタレーションなど、プログラミングを駆使した映像演出がどんどん国内外の広告で使われるようになって、現場に立ち会う回数が増えたんですよね。それが結構衝撃的で。インターネットの回線もどんどん速くなっていくし、制作の現場も、映像の作り方もどんどん変わってしまうんじゃないかって。業界全体にも危機感があったかと思います。

もともと興味があったというのもあるのですが、時代の流れを読まないとと思い、あわててプログラミングの勉強を始めました。パソコンとアプリケーションがあれば誰でも気軽に始められる業種というのも大きかったと思います。わりとすぐにウェブサイトやスマホのアプリの開発ができるようになりました。性に合ってたんだと思います(笑)。プログラミングの可能性に出会ったのがカヤックへの転職のきっかけですかね。入社してすぐにいろいろなプロジェクトに参加させてもらえるようになりました。ただ、技術の進化はものすごく早くて、どんどん新しいことに挑戦しているうちに、xR や開発が専門になっていきました。

時代の流れを読むという話がありましたが、新しい技術などの情報はどこから手に入れているんですか?

こういう仕事をしているので新しい技術が開発されるたびに企業から声がかかる、というのも大きいんですが、普段はインターネットが基本ですね。ネットのいいところって情報の平等性だと思うんです。自分が調べたいと思えばいくらでも調べられる。自分で選べるんですよね。企業のレポートや大学の教授の論文なんかも今はウェブで読めてしまうので、役に立ててます。それに最近は専門家が個人で発信している SNS アカウントやブログがあるので、積極的にフォローして情報を得ています。

あとは新聞の経済面なんかは特にチェックするようにしていて、ある企業が新しいセンサー技術を開発するために工場を買収したとか、そういうコアな情報をしっかり届けてくれるのって新聞なんですよね。仕事柄その情報を追わないと乗り遅れてしまうし、同業者と会った時に自分だけ知らないのも恥ずかしいなと思って新聞は読むようにしてます。

新聞、読んでみてどうですか?

世の中のことや自分の専門分野以外のことも幅広く掲載されてるのでいいなと思っています。SNS やネット上でフェイクニュースの乱立が始まってますよね。これはネットの悪いところで、ネットの情報ばかりに頼ってしまうと『一歩深く考えてみる』『思考する』っていう人としてあるべき能力が衰えてしまうと思うんですよね。さらに正体がわからない情報が多いので、惑わされてしまう。ちょっと考えれば、調べれば違うってわかることなのに。

その点『誰が取材したのか』というのがわかる新聞は、記者の方がしっかりと責任を持って説明してくれている感じがします。ただ、紙面に記者の方の顔をもっと出した方がいいなって個人的には思うんですけどどうですか? 野菜も農家さんの写真が載ってると買っちゃうタイプなので、顔が見えた方がさらに信用できるような(笑)。

今回取材に応じてくれた学生たちの中には、情報が多すぎて取捨選択ができないって悩んでる学生がたくさんいました。天野さんの学生の頃と比べてニュースの存在って変わったと思いますか?

今の学生とはニュースに触れる量が圧倒的に違いましたよね。それに僕らが学生の頃の情報って一方通行だったと思うんですよね。雑誌でもテレビでも。情報を受け止めてもリアクションができなかった。それで徐々にネットが普及して、「本当は相互的なコミュニケーションがしたかったんだよね」っていう僕ら大人たちが今のネット社会を望んで作ったんだと思うんです。

だから生まれながらに SNS がある今の学生たちは自由でうらやましいって思いますね。自分でニュースを選んで、考えたり、調べたりすることもできるし、ネットでたくさんの情報を手に入れることもできますし。いいとこ取りですよね。ただ、それでも悩んでしまうってことは…うーん、SNS によって距離感が崩壊してしまってるのかもしれないですね。近すぎるというか離れてしまってるというか。

距離感。なんとなくわかる気がします。オンライン上で『会った気』になってしまったり、SNS で見ただけなのにわかった気になってしまうという声もありました。

なるほど。会って直接顔を合わせて話した方がいいことってたくさんありますからね。僕らのチームでは育児や病気などのやむを得ない状況以外は *できるだけ出社をして顔を合わせて作業するようにしています。物を見て会話しながら作ったほうが早いですしね。クオリティーも上がるしチーム力も生まれるし。スティーブ・ジョブスがそれぞれの専門家とテレビ電話をして iPhone が生まれたとは思えないんですよね。きっと触って、話し合いを重ねて作ってると思うんですよ。きっと。友情もその方が生まれると思うんですよね…。

*取材当時(2020年2月26日)の状況です。

意外です。オンライン会議とかをしているイメージでした。

それ、よく言われますが、オフラインで顔を合わせることも大切にしています。もちろん VR 会議とかもいいなとは思いますが、まだ VR 会議の環境が整っておらず残念ながら現状は1つの手段です。例えばその人の状況や環境によってはオンラインの方が役に立つ現場もあると思います。僕らももちろんオンラインで会議することもありますが、あくまでクオリティーを上げることが目的であって、オンラインだから良いとか会うから良いというわけではなく、会って話した方がクオリティーが上がるだろうという前提の上で、出社を選んでるという感じですね。

天野さんはどういう就職活動をしましたか?

実は僕、高校卒業してすぐに美容師になったんですよ。美容専門学校に行くっていう選択肢はなくて、すぐに通信制度で免許を取り現場に入ってアシスタントを経験しました。やりたいと思ったらすぐに行動に移さないとダメなタイプなんですよね。

5年くらい美容室で働いて美容師を続けていくか別の新たなことに取り組むのか、社会へすぐに出たこともあり23歳で考え直す機会がありました。学生の時、絵を描くのが好きだったし、CG やりたいなって思っていたので大量に CG 関連の本を買いまくって、100万円くらいのパソコンのソフトを買って、独学で1本作品を作って、人づてでいろんな人に見てもらったんですよね。それを気に入ってもらえて前の会社に入れてもらったという経歴です。今思えば、美容師も CG もプログラミングも全部独学ですね(笑)。

独学で夢を形にするのは才能ですかね?

一貫して言えるのは、『いったん決める』という力が強いってことですかね。とにかく何をするにも難しいことを考えずにいったん決めて行動に移してきました。でも、これだけ情報があふれてて、たくさんの可能性があって、未来もあって、いろんなことを言ってくれる大人がたくさんいる中で、いろんなものを切り捨てて『いったん決める』って難しいと思うんですよね。ただ、やってみて、できなかったらやめて、次にチャレンジした方がいいかなって思ってます。

年齢のせいにできない時代ですよね。70、80歳で現役ですごいことやってる人たちは一杯いて、勇気をもらっています。例えば僕も、今から大学に入ってみたいって思いますよ。もっと学びたいし研究したいなって。新しく挑戦するなら音楽を勉強してみたいですね。プログラミングと音楽を組み合わせていい感じの音楽が作れたらも、もっと忙しくなっちゃうな(笑)。

若い人たちはもっと可能性にあふれてますよね。今からなら何度でも挑戦できると思うんですよね。もし進路に悩んでるようだったら、もしかしたらいったん決めてみるのもいいかもしれないですね。今の自分の知識と経験とセンスを早めに使ってみたらいいと思います。向いてなかったらやめて次の挑戦をすればいいですよね。誰も怒らないですよ。それにどんな経験もいつか糧になります。

天野さんはやめずにやりきっている印象があります。

最初に『やる』って決めてしまうのがポイントです。僕の場合は『髪を切るようになる』とか、『CGで作品を1本作ってみる』とか。これはあくまでも決めてしまうという儀式です。決めた後で途中で目標を変えてもいいですよ。やりきれることが大切。目標がもし達成できたら、次の選択肢が出てくるので、その時にどうしたいかは、またその時に決めればいいと思います。

最後に学生に対してメッセージをお願いします。

自己分析をして自分のことをもっと知ることが大切だと思います。例えばいくら強いライオンでも寒い土地だと死んでしまう。寒い土地にいない方がいいですよね。寒い土地が苦手ってわかってるからライオンは強いわけで。そもそも寒さに弱くないかもしれないのに暖かい土地に行ってしまうっていうのも違いますよね。それは自分の能力と環境のことがわかってない。それを知るために他人とコミュニケーションをとったり、『いったん決める』をやりきってみたり、環境を変えてみるっていう方法があると思うんです。

もしそれでも悩んだらサイコロで決めましょう(笑)。悩みすぎて時には立ち止まることもあるでしょうが、動き出せないのであればサイコロを使いましょう。ただしサイコロで出た目に対して『嫌だな』って思ったら振り直ししてくださいね。それは自分の中でまだ迷いがある道だということだと思うので、それを排除した上でまた振ってみる。それが自問自答になってきっと道が開けると思います。

記事公開日:2020年4月20日

天野清之
KIYOYUKI AMANO
1978年生まれ。デザイナー、プログラマーを経験した後にディレクターへ。xR、展示、映像の分野で没入感をコンセプトにした企画・開発を行い、技術と表現を組み合わせたコンテンツ開発で様々な賞を受賞している。主な作品は、TVアニメ『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』の作中演出制作、『宝石の国』オープニングアニメーション、『傷物語VR』など。2017年8月には映画『サマーウォーズ』のテレビ放送と連動した特設サイト「よろしくお願いしまぁぁぁすっ!! ボタン」の企画・制作に加わり、ツイッターで『#サマーウォーズ』のハッシュタグがトレンドワード世界1位を獲得した。

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