01
それぞれの切実さ
まず、2つのチームに分かれて5分間ほど、自分の中にあるモヤモヤや疑問を色分けされた付箋に書き出していきます。そのスピードはそれぞれで、深呼吸くらいの感覚でじっくりと書き出すひともいれば、筆が止まらないというひとも。普段誰かに話してみたかったけれど話せなかったことを、思い思いに書き記していきます。
例えば「学費が高い」と書いた学生は、「親に申し訳ないなと思いながら通っている」とのこと。それぞれの視点で書かれたメモには切実さが込められていました。


あっという間に5分は終了。今度は3、4人のチームAとチームBに分かれ、それぞれが書いた付箋を見せ合いながら、なぜそれを書いたのか、それに対して何を思っているのかを一人ひとりが順番に話していきます。手持ちの付箋の中に似たようなトピックや関連するトピックがある場合は隣に並べていくことで、問題に対する視野をみんなで広げていきます。
同じ学生とはいえ、ほぼ初対面の参加者同士。緊張感はありながらも、自分の思っていることを素直にシェアできるという機会に、期待が膨らんでいきます。
02
思いやりや理解をもって
【 チームAのディスカッションまとめ 】
教育関係に興味がある学生がいることもあって、テーマは子どもの教育から、大学との向き合い方、「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」に感じる違和感や、就活の話へと多岐に渡っていきます。
まるで軍隊のような行動を強いられた中学校や高校生活。意見をすると反抗だとみなされる授業のムード。みんな「自分の意見を言うことで誰かを傷つけてしまうのではないか」という優しさを持っているからそうなるのでは。そんな話も踏まえつつ、意見を言っているひとに向けられた嘲笑や、「思想強い」と言われてしまうことへの怖さについて議論を深めていきました。特に「ガクチカ」という考え方が生まれたせいで、学校の授業自体を「学ぶため」ではなく「単位を取るため」と考えるひとが多かったり、ボランティアや学生団体での活動をしていると「就活のためにやっている」と思われたりすることに対するモヤモヤは強い共感を得ていました。

【 チームBのディスカッションまとめ 】
政治のことに対してひとに意見することの難しさや、社会に対するさまざまな問題に対して行動を起こすことの難しさについて話が広がっていったチームB。結婚や出産、子育て、ジェンダー平等、デモ、お金、就活など、自身の体験やエピソードを通じて慎重に言葉を選んで話しているのが印象的でした。
参加者全員が女性ということもあって、女性だからこそ話せる悩みや、マジョリティーに対して感じることなどが言語化されていきます。同時に「生産性」「透明性」というキーワードを軸に、同性婚が認められない問題や、外国人労働者の低賃金の問題など、自分たちが当事者ではない他者の問題にも積極的に触れて、想像して、思いやりをもって「多様性」に対して理解をしようとする姿は、今回のゼミならではの特徴のようにも思えました。
違和感を違和感のままにしない。そんな気持ちが伝わってきます。




03
大きなものに抗えない
30分のディスカッションが終わり、次に能條さんとの対話がはじまります。
能條さん:みんなすごく盛り上がっていましたね(笑)。今度はみなさんがそれぞれのチームで話したことの「まとめ」じゃなくていいので、ゼミやワークショップを通じて、改めて個人として気になったこと、みんなとシェアしたいことを、ひとりにつきひとつのテーマで話してみてください。
小松桃子さん:最近、政治と教育は密接に関わっているのではと関心があるんですけど、今回能條さんの海外でのエピソードやみなさんの意見を聞いてみて、日本の教育って「無関心」にさせるような傾向にあるのかなと思いました。ガクチカの問題もそうですけど、学ぶためではなく就活するための学生生活になってしまっているし、いいところに就職するために大学も選んでいる。社会に出たことがないからどんな選択肢があるのかもわからない状態で「就活してください」と言われて、わからないからこそ「とにかくいいところ」となってしまっていて⋯。先生の話を聞いて受け止めることしかできない。意見すると「反抗」になってしまうのではないかって思ってしまうし、友人に言っても「思想強い」って言われてしまうのかなって。

能條さん:権力もそうですけど「大きなものに抗えない」という話は両方のチームで話されている内容でした。総合型選抜入試(旧AO入試)が増えて、中学・高校の時から内申点を気にしてしまって、先生の機嫌を伺うというのはより顕著になっている気はしますよね。もっと学生の就活を煽るだけではなく、学生がよりよい就活をできるようにサポートしてくれる団体がいるといいのかなと思いました。
石原愛珠さん:そもそも大学は学ぶところだから、卒業した後に就活をするのではダメなのかな?って思いますよね。授業を休んでまで面接に行くひともいて、本末転倒じゃない?って思ったり。ガクチカ文化もやめてほしい。チームでも話していたんですが、サークルやボランティア、学生団体での活動がすべて「就活のため」と思われてしまって。本気でやっているのに冷笑されているというか⋯。大学に入って「楽しみ!」と思ってた次の瞬間「就活」という言葉が出てきて⋯。高校受験の頃から常に何かに追われている人生のような気がして。生きづらいなと感じたりしました。

能條さん:隣のチームでは「生産性」っていう言葉が出ていましたが、社会に対するピュアな関心が、全部、資本経済や労働市場への参入のために利用されてしまうのはつらいですよね。でも両面を見ると「就活に役に立つ」という触れ込みで活動を広めてきた団体もあったりするのかなとも思ったり。難しいバランスですよね。
04
政治に興味がないひとと対話するには
石田七海さん:私は政治には興味があるんですけど、いろいろなひとと話す中で、政治の話を出すのはなかなか難しいなと感じていて。みなさんがどのように政治の話をしているのか、工夫していることとか、意識していることとかがあれば能條さんに聞いてみたいなと思いました。政治に興味のない地元のご友人とかとどう話されるのかなと。

能條さん:学校の先生になった友人がいて、ある日突然長文のDMを送ってきたんですけど、「残業がつらい」ということが書かれていたんですけど、私に言われても何も解決してあげられない。けど、たぶん誰かに言いたかったんだろうなっていうのはわかったし、私のことを政治に関係しているひとっていう認識はあるんだなって思ったけど、じゃあそのひとたちと政治の話をするかと言ったらそんなことはないし。そもそもわたしは小学生の時から毎日のように新聞を読んだり、池上彰さんの本を読んでいたりしていたので、そもそも話は合わないんだろうなって思っています(笑)。
ただ、全員と話せる必要はないんじゃないかなって。困っているひとがいた時に聞いてあげられる対象になっていればいいのかなって思っています。勉強にもなるし。社会問題に対して自分と全然違う意見を持っているひとっていっぱいいるし、そもそも自分の正義を振りかざしても通じないから、なぜそう考えているのかを聞くと、案外、ただただ不安を抱えていたりとか、怒っていたりする。意見を合わせたいわけではないけれどそういう考えの「はじまり」を知ると、対話はできるかなって。他者の意見や興味関心ってそう簡単に変えられるものではないから、心を開いてくれるタイミングを見計らうのがいいのかなって私は思っています。
例えば「結婚する」というタイミングが合えばその時に「夫婦別姓」の話をするとか。結婚を考えていないひとに夫婦別姓の話をしても通じないかなって。
小林穂花さん:私はここにいるみなさんに比べて政治とかに意識を持っていないんですけど、こういう場で、普段から自分が感じていることを言うと、それが案外「政治」につながっているんだなっていう気がしたし、みんなと政治の話ができているなって思えたので、「政治の話をしよう」って言われなければ、相手の本音を引き出せるのかなとか思いました。




05
だから社会は変わらない
堀はぐみさん:意見の違うひとと話すのってめっちゃエネルギーがいるし難しいし、できれば避けたいっていう思いがあります。さっき話で出ていた学生の「無関心」もそうですけど、社会全体に抗うのも難しいと思うし、若者の投票率を見ても、政治に興味を持っているひとってまわりにあまりいないから政治の話ってしにくいし、関心持っているひとがいたとしても意見が違う場合は分断を生んでしまうだろうし⋯。
私は、「多様性」を体感できたのは学歴関係なくいろいろなひとと一緒に過ごして来た小中の公立の学校で、でも話が合うのは大学のひとたちだったんですよね。それを考えると、私も大学ではつい自分の意見を合うひとばかりと話してしまうんですが、もっと多様性を知るためには自分の意見と違うひととももっと話す機会を作らないといけないんだろうなって思いました。同じようなひとだけで意見を交わして分断していったら、格差が開くだけでずっと社会は変わらないんじゃないかなって。

能條さん:本当にそうだと思います。人権とか多様性とか平等って言ってる人たちって、あるひとたちからすると「一部の世界の話」にしか見えなかったりします。きれいごとに聞こえるひともいるかと思います。そういうひとと話すのは難しいけれど、トランプ政権が誕生した時に、民主党が負けたのは人権を訴える高学歴なひとたちが増えたからだと言われていて、日本でも結構似ていることが起きているのかなって。私も活動をする中で学歴のこととか「特権なのでは?」と言われることもあって、なかなか難しいなと思う問題ですね。
06
デモに対して思うこと
S.Iさん:意見の違うひとと話すことの難しさもあるんですが、私は、言葉と行動が結びついていないことが、自分の中ですごい大きな悩みになっています。私たちの人権はもちろん動物もそうですが、いろいろなひとの権利が尊重されて、みんなが幸せになる世の中になるべきだし、みんなが生きやすい社会にするにはどうすればいいんだろうって思った時に、やっぱり声を上げるべきだと思うんですけど、なかなかデモに行くとか、行動に移せなくて⋯。
デモはハードルが高く感じてしまうし、都心に行くにも交通費はかかるし、お金がない中で、生活とデモを天秤にかけると、短期的な目線で、お金を選んでしまう。でもお金をかけずにできることもきっとあるはずとは思うんですけど、デモにひとりでも多くのひとが集まった方がいいのもわかっているんですよね。そんな感じでグルグルしてしまって⋯。そんな私からすると、能條さんってすごく勇気があるなって思うんですよね。自分にはできないので。

能條さん:そのグルグル、よくわかります。デモに行くことは手段のひとつとして重要だけれど、もちろんそれだけじゃないから、自分の違和感を信じて、心と体にしっくりくるもの、をやればいいのかなって思ってて。デモはデモに向いているひとっていうのがいて、そのひとたちに任せればいいから。でも、社会問題と向き合った時に、ひとりで抱え込んでいるな、寂しいなって思った時に都心の大きなデモに行ってみると、自分と同じことを考えているひとたちってこんなにいるんだなって思えて、元気になったりするから、心が欲した時は、お金がかかるかもしれないけど行ってみるといいのかなって。
あとは交通費が気になるなら地域の活動を調べてみるといいかも。それぞれの地域にいろいろな活動をしているひとがいるので、そのひとたちに会いに行って話を聞いてみるっていうのも手段のひとつだと思います。あとは人権とか平和とかって言葉にすると大き過ぎるから、もう少し自分の心に合った言葉を探してみるのもいいかもしれませんね。
私も実際、勇気があるわけではなくて、ビビりながらやっていて(笑)。NO YOUTH NO JAPAN も最初は「誰かやってくれないかな」と思って代表になってくれるひとを探していたくらいなので。たまたま友人が手伝うよって言ってくれて、自分ができることだけやっていこうって思ったら案外できて、次に次にとやっていると、まわりで支えてくれる仲間が現れて、勇気が湧いてくるんだと思います。たまたまメディアに出る機会が多いからひとりでやってると思われるんだけれど、はじめは全然勇気はなかったです。

豊田愛來さん:私もデモの話で思うことがあって。以前、女性の差別反対とか、女性の権利の平等のためのデモに参加したことがあるんですけど、男性の、女性に対する蔑視のミソジニーの逆で、男性を蔑視する「ミサンドリー」ではないかと思えるひとがすごく多かったんですよ。権利の平等を訴えているデモで、そういう対立の方向性には共感できないなって思ってしまって、そのデモにはもう行きたくないなって。自分が何かを変えたいと思ったデモでも、そういう違いは生まれるんだなって。だから自分に合うデモとか、自分に合う方法っていうのは探さないといけないんだなって思いました。

能條さん:そうなんです。そのコンパスをいかに持つかだと思うんですよね。同じ大きな「ジェンダー平等」というくくりでもその中にはグラデーションがあるので、他者との意見の違いを受け入れるための自分のコンパスを持つのは重要だなって思うし、それで自分が思う「心地のいい主張」というのを選んでいけばいいのかなって思います。「フェミニスト」ってひとくくりにすることって本当はできなくて、でも外から見たら同じに見えてしまうこともある。中に入ってから違いがわかるということもあるから、自分の意見が主張できる、自分に合った場所を探すのが大事なんだと思います。



さいごに
この後も、それぞれが抱える違和感やモヤモヤを能條さんに質問したり、参加者同士で意見を交換し合う時間が続きました。普段まわりには話せない政治のことや、自分がひとりで抱えていた悩みなどを言語化した参加者のみなさん。勇気を出して〇〇ゼミに参加したという体験、そして何より「動けば変わる」という能條さんのアドバイスが、お守りのようにひとりひとりの胸に残ったのではないかと思います。

能條さん:いやぁ、たくさん話をしていただいてよかったです。あっという間に終了の時間になってしまいましたね。来てよかったと思えるゼミになっていたらうれしいです。私も楽しかったです。ありがとうございました。

この記事を読んだひとは、ぜひ、まわりの友人や家族やパートナーと、「政治」のことや「モヤモヤ」していることについて話をしてみてください。そのコミュニケーションや対話こそが、今回のゼミの目的なのです。政治を考えることはわたしたちの暮らしを考えること。ぜひみなさんの意見を聞かせてください。
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STAND UP STUDENTS 編集部







