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STAND UP STUDENTS × 東京新聞「環境と多様性の約束」 STAND UP STUDENTS × 東京新聞「環境と多様性の約束」

東京新聞では2023年9月に、
SDGs 中長期ビジョン「環境と多様性の約束」を
公表しました。

MEDIA 足元から TOKYO 東京発 FUTURE 未来へ MEDIA 足元から TOKYO 東京発 FUTURE 未来へ

写真:坂本亜由理(中日新聞東京本社にて)

TALK SESSION

次世代のためにできること
~ 環境・気候変動 〜

東京新聞は2023年9月から「足元から」「東京発」「未来へ」という3つの視点で SDGs における中長期ビジョン「環境と多様性の約束」を掲げ、社会問題の解決に取り組んでいます。

その1つが、様々な分野の専門家と STAND UP STUDENTS の読者とも言える将来世代を招いて毎月行っているトークセッションです。4月に行われた「気候変動」をテーマにしたセッションの様子を紹介します。

写真:坂本亜由理(中日新聞東京本社にて)

参加者(写真左より)

まずはお互いの自己紹介から

福岡

さっそく自己紹介なんですが、デジタル編集部で記者をしている福岡と言います。ライフワークとして2019年末くらいから気候変動の取材を続けていて、今回は司会進行を務めさせていただきます。

橋本

ぼくは30年ほど水問題を専門とするジャーナリストとして活動をしています。もともとは開発途上国の水の不足や汚染などを調査して、解決方法を探るとともに、そこに住む人々の暮らしを情報発信してきました。近年は日本でもインフラの老朽化や豪雨災害の頻発などの問題が深刻になってきているので、調査をしています。同時に対策の手伝いもします。市民の人たちが自分たちの手で自分たちの地域を何とかしようとする「市民普請(ふしん)」という取り組みがあるのですが、その一環で小さな治水インフラを作るのを手伝っています。大学の講師もしていますが、体験を通じて気づきが得られるように「インタープリテーション(自然や文化、歴史などについて、知識だけでなくその裏側にあるメッセージを伝える行為)」を導入して、学生さんたちが大人をいろんな場所に案内するような活動をしています。

水問題を専門とするジャーナリストの
橋本淳司さん
ライフワークとして気候変動の取材を続ける
福岡範行記者

川﨑

私は先月大学を卒業したばかりなんですけど、3年前くらいから気候変動問題について考える若者中心のグループ「Fridays for Future Tokyo」で活動していて、東京新聞でも何度か取り上げていただいたことはあるんですけれども、「市民目線」で環境に対する危機感を訴えるイベントなどをしています。今は国分寺市に住んでいて、最近すごく「水」のことに興味があるので、一市民として、地域のことを自分たちで決めるとか、その地域の市民活動についても考えていきたくて参加させていただきました。よろしくお願いします。

山崎

私も以前「Fridays for Future Yokosuka」に所属して活動していました。入ってすぐに当時の小泉進次郎環境大臣に手紙を書こうというキャンペーンをリードすることになって、200通くらい集まった手紙を渡しに行くというのをきっかけに、自分から活動を積極的に行うようになりました。コロナ禍だったんですけど、4つの街と市に「ゼロカーボンシティ宣言」を出してもらおうと、行政や議員さんたちに働きかけをする活動もしていました。今はNPOで働きながら、仕事としても「ジェンダー」や「気候変動」などの問題に関わる人と接する機会が増えました。あと、Instagramで「Green TEA」というアカウントでコミュニティの運営もしています。他にも企業との対話や大学での講演などもいろいろやらせてもらっている中で今日はお誘いいただきました。

Fridays for Future Tokyo で活動する
川﨑彩子さん
気候危機に関するオーガナイザーを務める
山崎鮎美さん

野村

ぼくは大学を3年生が終わった時点で休学して、今、休学2年目に入ります。去年1年間はワーキングホリデーでオーストラリアに行ってました。3、4年前ぐらいから「アウトリガーカヌー」というハワイの伝統的なカヌーに乗るようになってから、環境問題とか水の問題に気づいて、いろんなことを勉強したりしています。東京新聞さんのウェブマガジン「STAND UP STUDENTS」の「STUDENT NOTE」という企画で一度エッセイを書かせていただいたのがきっかけで参加したいと思い、来ました。

カヌーを通じて環境について考える
野村悠人さん

福岡

では、今回のトークセッションに参加する東京新聞の社員のみなさん、自己紹介をお願いします。

柴本

私はメディアビジネス局で、水辺の環境について考えるイベントなどを実施しています。今日ご一緒している橋本先生とワークショップを開いたり、墨田区のスカイツリーのふもとの北十間川というところでハゼ釣りの教室を開いたりしています。

春原

販売局で仕事をしている春原と言います。普段は、東京新聞を配っていただいている地域の販売店さんを回っておりまして、配達や経営などの販売店業務全般を一緒に考えながらやっています。今日は「環境」について話をしていくということで、勉強させてもらえたらと思い参加しました。

東京新聞メディアビジネス局の
柴本弥生さん
東京新聞販売局の
春原一也さん

早川

会社の各部局からメンバーが参加しているSDGs・DEI推進チームを統括しています。その前に編集委員としてSDGsの取材を続けてきたんですが、 SDGsの現場は「二項対立」じゃないところにおもしろさを感じています。私は社会部の経験が長いんですけど、例えば教育だと「ゆとりVS詰め込み」みたいな二項対立の現場の取材が多くて、そうじゃない、もっと何か真ん中があるんじゃないかっていうもやもやを抱えながら仕事をしてきました。いろんな人がつながって「複雑なものを複雑なまま受け止めて一緒に考えていく」ことが、SDGsという概念が共有されたことでできるようになってきたと思っています。今日もこうやっていろんな人と一緒に話ができるっていうのがすごくうれしいなと思います。

福岡

では、専門家としてお招きした橋本さんと山崎さんからの話題提供に移りたいと思います。山崎さんには「足元から」という視点で「日本の企業の脱炭素の取り組みは進んでいると思うか」、もしくは「進んでいないとしたらどういうところが課題で今後どうしていくといいと感じているのか」というあたりをお話していただけたらと思います。

SDGs・DEI推進チームを統括する
早川由紀美記者

気候変動の問題を
どう捉えてどう考えるか

山崎

「気候変動対策を求めている20代」という立場からすると、やっぱり「進んでいる」とは言いづらいと思っています。気候変動は緊急性がものすごく高くて、2030年までにどうするかが問われている中で、不安に感じている将来世代を安心させる企業の取り組みは正直まだまだ少ないと思ってはいます。自分たちの事業における「サプライチェーン(製品の原材料・部品の調達から販売に至るまでの一連の流れ)」の中では脱炭素を促しますという企業や、気候変動の取り組みをウェブサイトに掲げている企業はすごく増えていると思いますが、「脱炭素を目指します」とただ掲げるだけの表面的な対応ではなく、行動に移すことが求められているのかなと思っています。とはいえ最近、企業のサステナビリティ担当者の方と対話すると、もちろん気候変動対策はしなければいけないとわかっているんですよね。むしろ私なんかよりも*ESGのことをわかっていて、すごくがんばっていらっしゃいます。

*ESG ⋯ Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス=企業統治)を考慮した投資活動や経営・事業活動。

山崎

ただ会社の規模が大きければ大きくなるほど、会社全体の課題として社内に浸透させて一丸となって取り組むとか、脱炭素のために発想の転換をして一大決心をするというのは本当に難しいのだなと感じています。その中でよく言われるのが「サステナビリティ」「カーボンニュートラル」など、カタカナ言葉で高齢の経営層が理解できないとか、結局「お金になるの?」という話になったり、短期的に経営が難しい中で中長期に及ぶ脱炭素行動にまで踏み込めていないというのも感じています。「自分事化」できていない。ただ対話を続けていると、将来世代のこととか気候変動のこととかを気に掛けていないわけではないとは感じるので、社内だけでなく第三者的にNGOとか地域団体とか、大学の先生とか研究者や将来世代とかが入って、社内の動きを「変えていく」ってことが必要なのかなと思っています。

野村

ぼくは先ほど早川さんがおっしゃった「二項対立」という言葉を聞いた時に一番思うのが、CO2だけが圧倒的に悪者として有名で、そこにみんなフォーカスしすぎているなということです。でも地球のシステムってそんなシンプルじゃない。CO2をどうにかしようっていう文脈で考えると、原発も電気自動車も、少なくとも稼働中はCO2を排出しない。だから解決策になりうると思ってしまうんですけど、原発は安全確保と廃棄物処理の問題があり、電気自動車はバッテリーが再利用できないという問題がある。ヨーロッパではすでに電気自動車のバッテリー問題が取り沙汰されているし。だからCO2にフォーカスした時に出てくる解決策って、問題の本質を捉えられないように感じます。この地球のエコシステムや人間の心はもっと複雑だから。

福岡

どんな風に問題を捉えれば、もっと良くなると思いますか?

野村

ぼくは、カヌーを通じてハワイやオーストラリアなどの先住民といわれる方と関わることが多いんですが、そういう方たちの環境に対する価値観はすごくシンプルで、自分たちがやることは「この地球を世話して次世代のために残すこと」、それしか考えていないんですよね。種をつないで、祖先がやってきたことに感謝してきた。日本人も昔はそうだったと思うし。そういう視野が、日本は高度成長期の時にあまりにも「人間」にフォーカスしてしまったせいで、地球との整合性がとれなくなった。けど、当時は経済発展していい暮らしして、子どもたちのためにっていう気持ちだったと思うけど、その視野が「人間の規模」だったがゆえに今いろいろ問題が起きている。その視野を、地球規模にすれば…これはぼくの気持ちの部分になってしまうかもしれないんですけど、そういう価値観というか「気づき」というのが大事だと思うんですよね。複雑だから、この世って⋯。それを気づかせるのが水の動きだなって思います。

福岡

山崎さんが先ほど言っていた「短期的に経営が難しい中で脱炭素行動にまで踏み込めていない」という問題と、野村さんの「視野」の狭さに対する指摘はつながっているのかなと思いました。橋本さんはいかがですか?

橋本

山崎さんの話で「サプライチェーン」という話が出てきましたが、東京というのはあらゆるサプライチェーンの末端にあるので、その「上流」を考えていけるといろいろなアクションに広がるかなと思いました。

山崎

「サプライチェーンの末端に東京がある」っていう考え、納得です。

橋本

口を開けて待ってるひな鳥みたいな生活をしているんで(笑)。ご飯がどこで作られているか知らないし、コンビニに行けば手に入ると思っている。その価値観に違和感を覚えます。

福岡

すごい大きな「消費地」というのは東京の特徴だと思うので、この先の話し合いでも大事にしたいと思います。よろしければ、その東京を舞台に、橋本さんの考えや取り組みについても聞かせてもらっていいですか?

あらゆる問題は
実はつながっている

橋本

ぼくは人類のことを「水の流れを変えたサル」だと考えることがあります。かつて狩猟生活を送っていたころは、水筒をもって野生動物と格闘していました。それが農耕をするようになって初めて、水の流れを変えて引き寄せました。18世紀後半に起きた産業革命は水を重力に逆らわせることに成功しました。これ以降、エネルギーさえあれば水は高い山へも難なく上るようになる。技術革新は巨大ダム建設を可能にし、大量の水を止め、機械化された農業技術と手を携えて、大量の水は大量の食料の生産を可能にしました。

現在は100年近く前に人類が使っていた水の量の倍以上を使っています。しかも人間が何万年もかけて使ってきた水の5倍の量を、たった100年で使っているんです。そして、その水がこの先「使いにくくなる」要素として「気候変動」があります。つまり SDGsの目標の6番(安全な水とトイレを世界中に)と13番(気候変動に具体的な対策を)は本来一緒に考えるべきです。

気候変動が進めば干ばつになっていく地域と、一時的に強い雨が降って洪水が多発する地域がどんどん広がっていくので、そこはリンクして考えた方がいい。今回のテーマでもある「東京発」という取り組みでいえば、「流域」を「フィールド」として考えると、みんなが参加しやすくなるのではと思っています。というのもSDGsの活動はみんなそれぞれすばらしいことをやっているんだけど、17の目標を同時にやれるフィールドがどうしても必要で、それが集まる「持続可能な流域」とはどうやったらできるのかがぼくの大きなテーマです。つまり「水の流れてくるフィールド」の中で、私たちの食べ物やエネルギー、水や森などを見ていくのが大事なことになると思うんですよね。

自分の暮らす町を
「流域」として考えてみる

橋本

ひとつの例として豊島区は埼玉の秩父に「としまの森」という森を整備しています。上流にあたる秩父の森林保全は中下流域の豊島区にも長い目でメリットがあるし、カーボン・オフセットにもなります。このように上流下流で森林や農地の保全などを連携してできればいい。田んぼはそもそも「お米を作る場所」のように思われてしまっていて残念ですが、実際には、洪水抑制、地下水の浸透、生物多様性を守るなど多様な役割を果たしてくれます。農家は個人で周囲の人の暮らしを守っているんです。

なので、そこに働きに行くのでもいいし、そこでできたものを食べるのでもいいし、何かお手伝いができればいいなと思っています。ぼくは川の流域を酒場に見立てて、「流域酒場」というデモンストレーションを行っています。たとえば荒川流域でつくられた酒や豆腐を持ち寄り集まって情報交換する。集まった人が流域を意識したり、上流の問題を下流の人たちが解決したり、そういう関係性が生まれればと思って活動しています。

山崎

私たちも「水」と「気候変動」の問題を接続して考えることができないのが悩みのひとつでもありました。コロナ禍でオンラインでしか情報が追えなかったのも原因ですが、これからは「流域酒場」の活動のように、SDGsの13番だから、だけではなく、いろんな問題と一緒に気候変動問題を捉え直すというのは考えていけるのかなと思いました。

福岡

川﨑さんはこれまでの話を聞いて、何か思うことはありますか?

川﨑

水の話で言うと、私が住んでいる国分寺市では、*PFAS汚染が問題になっていて、もっと政治で取り上げてほしいと思って市政を見ているんですが、なかなか選挙でも取り上げられないんですよね。票につながらないからという意見も。一概には言えませんが、東京の特徴として住民の入れ替わりが激しいから、地域に帰属意識を持って「何かを守りたい」という人が少ないのかな?っていうのが、課題としてあるのかなと思いました。

*PFAS汚染 ⋯ 発がん性などが指摘されている有機フッ素化合物(PFAS=ピーファス)が各地で検出されている問題。東京都などの調査では2005年から、多摩地域の広範囲の井戸で高濃度のPFASが検出された。米軍横田基地では2010〜23年に計8回のPFAS漏出事故が起きた。

福岡

ずっとそこに暮らしている人と、そうじゃない人ではたしかに環境問題に対する意識にはギャップがあるのかなと、聞いていて感じますね。その点、野村さんはいかがですか? 何か言いたくてうずうずしている感じがしますが(笑)。

野村

「帰属意識」は自分もすごく大事だと思ってて、例えばオーストラリアの先住民アボリジニは長く同じ場所に住んで、先祖を大切にする信仰があって、先祖がそこにいてくれたから守ってくれているっていう⋯人によっては「スピリチュアル?」かもしれないんですけど、そのために歌を歌って、踊りを踊る。でも往々にして、地球に一番、環境負荷を掛けているのは「帰属意識」のない大都市。日本でいえば東京。だから「帰属意識」というか、その「土地を愛する」っていうことは大事なんじゃないかなって。

それと、橋本さんが言っていた「上流を考える」という話は、養老孟司さんも「田んぼは将来の自分になる」と言っているんですけど、上流域の田んぼのお米をいただいて、いずれ自分の肉になるという感覚を取り戻すっていうのはすごい大事だし、そういう感覚がぼくらや経営者にあれば、気候変動の問題にもっと自発的になれると思うんですよね。あと、ぼくはカヌーで海や川に出たから、そこに浮かぶゴミを見て環境問題に気付いて、「水をきれいにしなければ」と思ったけど、この「出る」っていうきっかけがないと、なかなか思えないと思うんですよね。そういった意味で、橋本さんの「流域酒場」は良いなと思いました。

東京新聞が
気候変動に対してできること

福岡

次に私たち「東京新聞」がメディアとしてどうあるべきかという議題に入っていこうと思うのですが、これまでの話を聞いていて、東京新聞側のみなさんから一言ずついいですか?

早川

私はサステナビリティーをCO2の排出量とか数字だけでとらえてしまうと、自分事にはなりにくいというのは感じていました。今日みなさんの話を聞いていて、野村さんの「カヌー」や「流域酒場」もそうですけど、頭でっかちにならずにリアルに向き合っていくことが「自分事」になっていくのかなと改めて考えることができました。ありがとうございます。新聞の配達を通じて「温暖化」の影響を受けていると思われる販売店さんの担当の春原さんはどう感じましたか?

春原

ぼくが普段、販売店さんをまわっていて気候の話を聞くと、特に夏の夕刊の時間帯が非常に暑くて配達が大変なんですけど、10年ぐらい前までは、大体7月とか8月のお盆ぐらいまでが暑くて、それを超えると暑さも和らいでやりやすかったそうです。最近は6月とか、下手すると5月ぐらいから暑くて、10月ぐらいまで続いてる。そういった意味では販売店さんは気候変動を身近に感じている部分もあるのかなと思いましたので、今日の話を何かで生かせたらなと思いました。

柴本

私は東京に暮らす人の「帰属意識」という言葉が気になりました。東京は川﨑さんが言うように人の出入りも激しいけれど、長く住んでいる人も多くいらっしゃいます。住んでいる地域の特性を知り、自分の命をいかに守るかを常に考え対策を編み出している人たちもいます。生きる知恵があるなと。自分の住んでいる場所の水はきれいなほうが良いなと思う人も多くいるでしょうし、そう考えている人たちが行動のきっかけを生み出せる新聞社でありたいなと思います。

福岡

では「東京新聞」という会社が「東京発」としてどんなふうに行動していけばいいのか、みんなさんのご意見を改めて聞いていけたらと思います。この機会なので言いづらいこともざっくばらんに意見していただければと思います。

橋本

冒頭にも言いましたが、東京はエネルギーも食べ物も残念ながらサプライチェーンの中で下流の方にあって、ほぼ買ってくる状態です。一番下流の人ができることは、やっぱり「ゴミを出さないこと」だと思うんですよ。「責任持って買う」っていうことと「買ったものは残さない」。だから、そう考えると東京新聞さんは「ゼロ・ウェイスト新聞社」になればいいと思いますね(笑)。

*ゼロ・ウェイスト ⋯ 英語のウェイスト(waste)は「ムダ」。それをゼロにする、すなわちムダや浪費をなくして、ごみを出さないこと。

春原

できるだけアイデアを出し合って古紙の再利用などはしているんですがね⋯。

山崎

出たゴミをなくすだけじゃなく、製造過程で減らせるものを考えるのもひとつかと思います。ゼロじゃなくても、減らそうとする組織体制ですというシフトも大事なのかなと思ったりします。

橋本

いらなくなったのを誰かに渡して「使いまわす」という行為は新しいコミュニケーションも生むので、とても良いと思います。

野村

もう宣言しちゃったらいいんじゃないですか? 社内の記者のネットワークもあると思うので、専門家を招いてワークショップをやってみるとか。

山崎

それこそ「自分事」化につながる気がしますね。

橋本

あと実際に「手を動かすことの重要性」をすごく感じていて。SDGsについて紙面で伝えて考えてもらうことはとても大事なんですけども、その一方で「体験」をさせてあげられる機会を創出していただけると非常にうれしいなと思いました。「考えないでもわかる」ということがあると思うんです。

山崎

今はスマホを見るだけでいろんなことが知れるし、いろんな体験も学びもできるし、いろんな形で情報をインプットできる世の中で「新聞って何なんだろう」と考えました。もちろん「SDGsは大事だよ」って言ってもらうことは前提としてすごく必要ですが、「新聞じゃなくてもできる」ことが増えているから、体験とか交流とか、そういうことに重きを置いて、「新聞」とは言わないかもしれないですが、双方向で読む人も関われるものになっていくと良いかなと思いました。

福岡

サプライチェーンの最下流でもある「東京発」だからこそ、我々ができることはあると思いますか?

山崎

下流にいると言ってもコミュニティがないわけではないですし「コモン(共有財)」もないわけでもないので、新聞社のネットワークを通じていい取り組みについて話し合えるといいなと思います。

福岡

例えば「いい取り組み」の具体的なイメージはありますか?

山崎

私の友だちが渋谷で*ビオトープをやっているんですが、みんな「渋谷でそんなの広まるわけがない」と思っているんですよね。「好きでやっている」っていう認識を変えられたらと思ったり。

*ビオトープ ⋯ 生物多様性の維持や、都市住民と自然とのふれあい創出等を目的に、生物が生息できるように人工的に作った空間。語源はドイツ語で、Bio(生物)とTope(空間・場所)。

野村

「渋谷にビオトープがある」っていうのは数字としてどういう効果があるという話ではなく芸術的な意味があると思うんですよね。メッセージとしてでかいと思う。「東京でこんなことやっているんだぜ」っていうところはやっぱり芸術の持っている力に昇華できると思うし、それを言葉として広められるのが新聞の力なんじゃないかなと思います。

橋本

ビオトープは単発では小さくても、複数のビオトープのネットワークがあれば、生き物は移動することができます。そういう視点で「つなげる」っていうのは大事で、「都市農園」も生き物の居場所として同じだと思うんですよ。両方とも東京の都心の熱を冷ます働きをしているので、実は気候変動とも関わっている。新聞社がそういう小さな取り組みをネットワーク化していくというのもひとつの方向性としてあるように思います。

早川

「つなぐ」というのは新聞社が得意としてるところでもあるので、そういう小さな取り組みをネットワーク化していくというのは、できることのように思うし、大事なことだと思います。

大切なのは水を
「ゆっくり」流すこと

橋本

気候変動とは「水の動きが早くなること」とみることができます。だから水をゆっくり流している人たちのネットワークを作ってもらうとありがたい。「水をゆっくり流す活動」にはいろいろあって、例えば雨水タンクなどに一時期ためて、下水道がオーバーフローしないようにする活動とか、耕作放棄池を再び田んぼにするとか、都市部の森林を保全するとか。水をゆっくり流すというキーワードで、みんなが「私はこんなふうにゆっくり流してます」ということを紙面で共有できたりするといいのかも。

福岡

視野を広げてつながりを意識するって大切なことだと感じました。最後に「未来へ」について。我々が東京新聞として何ができるのかっていうところについて、提案をお願いします。

山崎

ふたつあって、ひとつはZ世代など「若者」っていう大きなくくりをやめてほしいです(笑)。どう考えたって若者ってもっと多様だし、一人ひとり違う。もうひとつは「東京新聞版『気候若者会議』」のような場があるといいと思っています。東京新聞ならではのネットワークを生かして、これから頑張りたい人たちをつないで話せる場所というか「入口」になってほしいです。

川﨑

「若者をひとくくりにしないでほしい」っていうのはすごい共感しています。一緒に活動している大人が「私も参加していいのかな」とかそういうのをすごい聞くんですよ。なんかやっぱり若者を「よいしょ」しすぎている気がします。

野村

ぼくは気候変動に関する記事を書くときに、CO2にフォーカスしすぎず、広い視野でとらえてもらえればと思います。あとは「帰属意識」が生まれるような記事が多くあるといいなと。

橋本

若者をひとくくりにしないというためにも、20代までの読者を40%ぐらいの比率に引き上げることを目指してはどうかと思うんです。現在の世界人口の0歳から19歳までの割合が40%なんですよ。いま、日本の若者は世界に比べて非常に少ない人口割合に押し込められているから閉塞感があると思うんです。なので、もう少し記事作りにおいて、若者に向けた記事を書くといいと思います。きっと変わると思います。

福岡

ありがとうございます。「若者をひとくくりにしないで」というのは、もう本当にその通りだと思いました。個人的には自分が書くときは「若者が」っていう記事はやめています。「気候変動対策に取り組む若者グループ」とか、「若者の中のこういう人」っていうことがわかるような表現にしようと思ってやっているっていうのがひとつ。あと、いつも若い世代の人たちと会話するときに、この人たちの言っていることをきちっと実現していくのはぼくらの世代だよなと思いながらやっています。若い世代の人たちは意思決定の場にいないことがとても多くて、そのことにすごく悩んでいたり葛藤を持っていたりする。ぼくは意思決定を全面的にできる立場にいるわけじゃないけど、若い世代の人たちよりはまだ、いろいろなことを決めるところに近い位置にいるから、自分たちが動いて、もっと上の世代を巻き込んで、みんなで同じ問題意識を持てるようにしていきたいなっていうようなことを考えています。今日あらためて、そこを課題としてきちっと受け止めて、引き続き、やれることをやっていきたいと思っています。

柴本

冒頭で「複雑なものを複雑なまま受け止めて一緒に考えていく」という話がありました。気候変動を考える上では、その考え方がとても大切なのではと思っています。しかし、受け止める側のリテラシーも必要。私も自分の中の土壌を豊かにして気候変動について考えていきたいと思いました。

春原

橋本さんから20歳までの読者を40%にという話がありましたが、現状は中高年の読者が圧倒的に多い。課題は大きいですね。

早川

橋本さん「流域」の話を聞くと、東京の地図がそれまでとは変わって見えるようになりますね。雨水をゆっくり流すための森林や公園、田んぼがあって、それぞれの流域で市町村を越えて人々はつながっている。気候変動対策は「水をゆっくり流していく」という社会に戻していくということでもある。経済活動にのめり込みすぎないとか、先住民の思考を大事にするとか、「ゆっくり」というのはひとつのキーワードだと感じました。「ゆっくり」をキーワードにした人の関係のつなぎ直しとか、思考回路の組み立て直しとか、紙面やウェブ、イベントでの体験も含めてやっていけることはあるんじゃないかなと思います。

みなさんありがとうございました!